米為替政策の方向性
市川レポート(No.345)米為替政策の方向性
- トランプ大統領はドル安志向、ムニューチン次期財務長官も短期はドル安志向という見方が浮上。
- ただトランプ発言は元安が念頭にあり、ムニューチン発言も一般論で、共にドル安誘導ではなかろう。
- 新政権の為替政策は表向き強いドル政策を継続しつつ、ドル安に振れた場合は黙認の可能性も。
トランプ大統領はドル安志向、ムニューチン次期財務長官も短期はドル安志向という見方が浮上
今回のレポートでは、トランプ大統領とムニューチン次期財務長官の為替に関する最近の発言を踏まえ、米国の為替政策の方向性について考えます。1月16日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、トランプ大統領は大統領就任前の1月13日のインタビューで、ドルが強すぎて米国企業は中国企業と競争できないと述べました。その結果、為替市場ではトランプ新政権はドル安志向との思惑が強まりました(図表1)。
一方、次期財務長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏は1月19日、上院委員会の承認公聴会で、長期的には強いドルが重要であると主張しました。ただ1月24日の米ブルームバーグ・ニュースで、同氏は承認公聴会後に米上院議員から受けた質問に書簡で回答し、過度に強いドルは米経済に短期的にマイナスの影響を与える可能性があるとの考えを示したことが明らかになりました。
ただトランプ発言は元安が念頭にあり、ムニューチン発言も一般論で、共にドル安誘導ではなかろう
一見すると、トランプ大統領は「ドル安志向」、ムニューチン次期財務長官は「短期ドル安志向」・「長期ドル高支持」という解釈ができるため、新政権のドルに対する見方が分かりにくいように思われます。そこで両者の発言を少し整理します。まずトランプ大統領の就任前の発言は、そもそも人民元安を念頭に置き、相対的にドルが強いと述べたものであるため、単にドル安を望む趣旨のものではないと考えます。
またムニューチン次期財務長官の書簡での回答については、過度にドル高が進んだ場合、国内輸出企業への影響が懸念され、短期的には米経済に悪影響が生じる恐れがあるという、あくまで一般論を述べたものに過ぎないと推測されます。したがって、ムニューチン次期財務長官自身が、短期的にドル安を指向しているということはなく、また為替相場を牽制する意図もないと思われます。
新政権の為替政策は表向き強いドル政策を継続しつつ、ドル安に振れた場合は黙認の可能性も
このように整理すると、現時点でトランプ新政権がドル安志向、すなわちドル安誘導を為替政策の基本方針に考えていることはないと思われます。ただ新政権は為替政策について、ルービン長官以降の「強いドル」政策(図表2)を表向き継続しつつも、国内製造業を重視する観点から、為替相場がドル安に振れた場合は黙認するというスタンスをとることが考えられます。
一方、ドルが過度に上昇した場合、米国は20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)声明における「通貨の競争的な切り下げを回避することや、競争力のために為替レートを目標とはしない」という文言に基づき、対米貿易黒字の大きい国の通貨に言及する可能性があります。これによって当該国の通貨に上昇圧力をかけ、「強いドル」政策を維持しながら、過度なドル高是正を目指すことも想定されます。
(2017年1月25日)
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