長期金利上昇に対峙する日銀
市川レポート(No.333)長期金利上昇に対峙する日銀
- 日銀は11月17日に指値オペを実行し、まずは短期ゾーンと中期ゾーンの利回り上昇を強く牽制。
- 12月14日には国債の買い入れ増額や異例の対応で、長期と超長期ゾーンの利回り上昇を抑制。
- 10年債利回り目標引き上げ議論は時期尚早、日銀は当面現行の枠組みで利回り上昇に対応。
日銀は11月17日に指値オペを実行し、まずは短期ゾーンと中期ゾーンの利回り上昇を強く牽制
米大統領選挙後、米国債利回りの上昇傾向が鮮明になると、日本にもこの流れが波及しました。11月8日から11月16日までの間、日本国債の利回り曲線は、短期ゾーンと中期ゾーンを中心に利回りが大きく上昇しました(図表1)。これに対し日銀は11月17日、あらかじめ決まった利回りで国債を無制限に買い入れる「指値オペ」を初めて実施しました。これは9月に導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環となる施策です。
指値オペでは、残存期間が「1年超3年以下」および「3年超5年以下」の国債が対象となり、買い入れ利回りは2年国債が-0.09%、5年国債が-0.04%でした。これらの利回りは11月16日につけた高値水準であり、日銀はこの水準以上の利回り上昇を牽制したと推測されます。ただ11月17日は、市場の利回りが指値オペよりも低かった(価格は高かった)ため、市場で国債を売却する方が有利となり、指値オペの応札額はゼロでした。
12月14日には国債の買い入れ増額や異例の対応で、長期と超長期ゾーンの利回り上昇を抑制
その後、日本国債の利回り曲線は、短期ゾーンと中期ゾーンの利回り上昇にやや一服感が出たものの、米国債利回りの上昇が12月に入ってからも続くと、今度は長期ゾーンと超長期ゾーンの利回り上昇が顕著となりました(図表2)。これに対し日銀は12月14日、残存期間が「10年超25年以下」および「25年超」の国債について買い入れの増額に踏み切り、買い入れ額を前回から100億円ずつ増やし、それぞれ2,000億円、1,200億円としました。
今回は、20年国債の入札が12月15日に予定されていたため、前日に同じ年限の国債買い入れが行われることになり、また残存期間10年超の国債買い入れを12月16日に実施することが事前に通知されるなど、異例尽くしの対応となりました。日銀が再び長期金利の上昇を牽制する姿勢を示したことで、長期ゾーンと超長期ゾーンの利回りは急速に低下しました。
10年債利回り目標引き上げ議論は時期尚早、日銀は当面現行の枠組みで利回り上昇に対応
日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」において、10年物国債利回りがゼロ%程度で推移するよう国債の買入れを行うとしています。指値オペや国債買い入れ増額を経て、足元の10年国債利回りは0.10%付近で推移しています。市場では、日銀が許容する10年国債利回りの上限は0.10%とみる向きもあり、また一部にはゼロ%目標の引き上げ議論も聞かれます。
ただ足元の国債利回り上昇は、トランプラリーの影響が大きく、ゼロ%の引き上げ議論は時期尚早と考えます。少なくとも国内物価の上昇傾向が明確に確認されるまで、日銀は現行の政策の枠組みを維持し、国債利回りの上昇抑制に努めると思われます。12月19日、20日には日銀金融政策決定会合が開催されますが、政策の変更はないと予想します。会合後に黒田総裁が記者会見を行いますので、長期金利上昇の見解とその対応についての発言が注目されます。
(2016年12月19日)
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