ドル高・円安の落ち着きどころ

2016/11/22

市川レポート(No.325)ドル高・円安の落ち着きどころ

  • トランプ次期大統領の政策に対する「期待」から、ドル円は2週間足らずで10円超の円安が進行。
  • 過去アベノミクス「期待」でもドル円は9円58銭ほど円安が進んだ、しかしその期間は約2カ月だった。
  • 「期待」による円安は「10円程度」が目安か、それ以上は米大統領就任後の具体策が待たれよう。

トランプ次期大統領の政策に対する「期待」から、ドル円は2週間足らずで10円超の円安が進行

ドル円は11月9日に1ドル=101円20銭水準をつけた後に急反転し、11月21日には111円36銭水準をつけました。トランプ次期大統領の大規模減税やインフラ投資などが材料視され、2週間足らずで10円を超えるドル高・円安が進行したことになります。ただ冷静に考えれば、減税など具体的な政策はまだ何一つ決まっておらず、閣僚人事の人選も現在行われている最中ですので、足元のドル円相場は極めて「期待」先行の動きといえます。

為替レートは、価格にキャッシュフローの裏付けがある株式や債券と異なり、2通貨の交換比率に過ぎません。そのため投機的な取引に利用されやすく、もともと「期待」や「思惑」だけで変動しやすいという特徴があります。そこで今回のレポートでは、過去ドル円相場が政策「期待」で動いた局面を振り返り、その時の変動幅と変動期間を検証し、ドル高・円安の落ち着きどころを探ります。

過去アベノミクス「期待」でもドル円は9円58銭ほど円安が進んだ、しかしその期間は約2カ月だった

さかのぼること2012年11月14日、当時の野田首相は自民党の安倍総裁との党首会談において、11月16日に衆議院を解散する意向を表明しました。安倍総裁は大胆な金融緩和など、いわゆる「アベノミクス」を経済政策として掲げていたため、政策実現の「期待」から為替市場では大幅にドル高・円安が進行しました。なお党首会談の前日、11月13日におけるドル円の安値は79円21銭水準でした。

その後、2012年12月16日の衆議院総選挙で自民党が勝利し、安倍政権が誕生すると2013年1月11日には約10兆円規模の経済対策が早々に打ち出されました。その前日、1月10日におけるドル円の高値は88円79銭水準でした。つまりアベノミクスに関し、「期待」先行でドル高・円安が進行した幅は9円58銭程度、その期間は約2カ月ということになります。これからすると今回のドル円は「期待」を短期間で一気に織り込む動きになっています。

「期待」による円安は「10円程度」が目安か、それ以上は米大統領就任後の具体策が待たれよう

日米で単純比較はできませんが、「期待」によるドル高・円安の変動幅は、「10円程度」が取り敢えずひとつの目安になると思われます。参考までに弊社は年内のドル円の上限を112円(11月9日安値の101円20銭水準から10円80銭程度ドル高・円安の方向)とみています。なおアベノミクスでは「期待」による変動期間が約2カ月でしたが、米大統領選挙から約2カ月経過すると、ちょうど2017年1月20日の大統領就任式がみえてきます。

アベノミクスの具体策(2013年1月11日の経済対策発表、1月22日の物価目標導入、4月4日の量的・質的金融緩和導入)を受け、ドル円は2013年5月22日に103円74銭水準の高値をつけました。トランプ次期大統領は「就任100日行動計画」を発表しており、就任から100日後は2017年5月頃になります。足元で相当な「期待」を織り込んでいるドル円相場を一段と押し上げるには、トランプ次期大統領による「期待」以上の政策が必要です。そのため現時点で1ドル=120円をみるのは時期尚早と考えます。

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 (2016年11月22日)

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