日米欧のイールドカーブ変化が示唆すること

市川レポート(No.299)日米欧のイールドカーブ変化が示唆すること

  • 米長期国債利回り上昇の背景には、日欧国債利回り上昇による米国債需給の悪化観測がある。
  • ドイツ長期国債利回り上昇の背景には、ECBは追加緩和に対して消極的との市場の見方がある。
  • 日本10年国債利回り上昇の背景には、日銀のイールドカーブスティープ化政策への期待がある。

米長期国債利回り上昇の背景には、日欧国債利回り上昇による米国債需給の悪化観測がある

このところ日米欧の長期国債利回りが上昇し、利回り曲線(イールドカーブ)の形状が顕著に変化しています。今回のレポートでは、その変化が何を示唆しているのか、日米欧それぞれについて考えてみます。まず米国について、9月7日と19日の国債利回りを比較すると、利回りは全期間で上昇しました(図表1)。上昇幅は短期よりも長期の方が大きかったため、イールドカーブは傾斜(スティープ)化しました。

フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む9月の利上げ確率が低下傾向にあることなどを勘案すれば、米国におけるイールドカーブのスティープ化は、利上げ観測の高まりによるものではないと思われます。むしろ、マイナス金利政策を導入している日欧で長期国債利回りが上昇したため、日欧から米国債市場に流れる投資マネーが減少するとの思惑が強まり、米国債需給の悪化観測が利回り上昇につながったと推測されます。

ドイツ長期国債利回り上昇の背景には、ECBは追加緩和に対して消極的との市場の見方がある

次に欧州について、9月7日と19日のドイツ国債利回りを比較すると、米国と同様、利回りは全期間で上昇し(図表1)、イールドカーブのスティープ化が進みました。きっかけは、9月8日のECB理事会で追加緩和が見送られ、その後の記者会見でドラギ総裁が、債券購入の期間延長は協議しなかったと述べたことです。市場では欧州中央銀行(ECB)は追加緩和に消極的との見方が強まり、これが国債利回りを押し上げたと考えられます。

ドイツ10年国債利回りは、9月9日にプラス圏に浮上し取引を終え、その後は0%前後での推移が続いています。ECBはしばらく金融緩和の効果を見極める姿勢を続けると思われますが、12月には債券購入の期間延長などを含む追加緩和を行うと予想します。そのためこの先、ドイツ10年国債利回りは低位安定推移が見込まれ、明確な上昇傾向を示す可能性は低いと考えます。

日本10年国債利回り上昇の背景には、日銀のイールドカーブスティープ化政策への期待がある

最後は日本についてです。最近の市場では、日銀が9月20日、21日の会合でマイナス金利の深掘りと、長期国債の利回りが下がり過ぎないよう国債買い入れの柔軟化を決定し、イールドカーブのスティープ化を狙うとの見方が強まっています。実際足元ではこの見方を反映し、短期が低下し長期が上昇するツイストスティープの動きがみられます(図表2)。一般に、イールドカーブのスティープ化は、将来の景気回復、物価上昇、金融緩和の解除を示唆するといわれます。

ただ、このところの日欧長期国債利回りの上昇は、日銀とECBの国債買い入れ戦略に対する姿勢の微妙な変化の可能性を織り込んだものに過ぎないと思われます。そのため緩和維持あるいは追加緩和の姿勢が示された場合、日欧の国債利回りは再び低下に向かうと考えます。また日銀への政策期待については、これも一般に、中央銀行が直接イールドカーブの形状を操作することは極めて難しいという点は理解しておく必要があります。

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 (2016年9月20日)

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