日銀は9月にどのような検証を行うのか

2016/08/01

市川レポート(No.282)日銀は9月にどのような検証を行うのか

  • 現行政策への懸念が強まるなか、日銀は9月に自らの政策をどう評価するか大いに注目される。
  • 物価目標の達成時期について、現状それを明示しているのは主要中央銀行のなかで日銀のみ。
  • 9月に政策の枠組みが刷新される可能性は低いが、達成時期の明示は幾分議論の余地があろう。

現行政策への懸念が強まるなか、日銀は9月に自らの政策をどう評価するか大いに注目される

日銀は次回9月20日、21日の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」および「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や、政策効果について総括的な検証を行うことになりました。これを受けて市場では早くも、物価目標の達成時期を含む現行の政策の枠組みについて、何らかの変更がなされるのではないかとの見方が浮上しています。

「量」の拡大については国債の品薄感が指摘され、「質」の拡大についてはETF買い増しで株式の価格形成機能が損なわれる点が懸念されます。また「マイナス金利」の深掘りについては金融機関や債券市場参加者からの評判は総じて芳しくなく、物価目標の達成時期は先送りが続いています(図表1)。このような状況下、日銀が自らの政策をどのように評価するのか大いに注目されます。

物価目標の達成時期について、現状それを明示しているのは主要中央銀行のなかで日銀のみ

物価目標は日銀を含め多くの中央銀行が導入しています(図表2)。ただ米国とユーロ圏では明確な物価目標の導入は表明されていません。それでも米連邦準備制度理事会(FRB)は「長期的な物価目標」として、個人消費支出(PCE)物価指数の前年比上昇率を「2%」と定義しており、欧州中央銀行(ECB)は「物価安定の数値的定義」として、消費者物価指数の前年比上昇率を「2%未満だがその近辺」に設定しています。

近年、物価目標の位置付けは、厳格な「目標値」から政策運営の透明性を高める「参照値」に移行しています。そのため多くの中央銀行は、足元の物価が目標から乖離しても、金融政策を柔軟に運営し、中期的な物価の安定と持続的な経済成長を目指すという姿勢を明確にしています。その結果、図表2で示される通り、物価目標の達成時期を明示しているのは、主要中央銀行のなかで日銀のみです。

9月に政策の枠組みが刷新される可能性は低いが、達成時期の明示は幾分議論の余地があろう

日銀の黒田総裁は従来から、物価目標の達成について明確な期限をコミットすることは、デフレ脱却の強力な手段であるとの立場にあります。しかしながら実際は、物価の伸び悩みを背景に、達成時期の先送りが続いているのが現状です。この点について黒田総裁は7月29日の記者会見において、物価が伸び悩む理由として「石油価格の下落」と「消費税率の引き上げ」を挙げています。

黒田総裁のこのような発言を踏まえれば、日銀が9月の検証でこれまでの政策の枠組みを刷新する可能性は低く、現行の政策をベースに2%の物価目標をできるだけ早期に達成する方法を模索すると思われます。なお物価目標自体も、できるだけ早期に2%という基本方針を維持するとみられますが、達成時期(現在は2017年度中)を明示することについては、幾分議論の余地があると考えます。

160801図表1160801図表2

 

 (2016年8月1日)

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