今再びのジョージ・ソロス
市川レポート(No.262)今再びのジョージ・ソロス
- 金融市場では英国民投票への警戒が強まっており、日米欧の国債利回りは揃って低下傾向に。
- こうしたなか、かつて巨額の英ポンド売りを仕掛けたジョージ・ソロス氏が現役復帰したとの報道も。
- 投票日に向け市場の緊張は高まると思われるが、最終的に英国民はEU残留を選択するとみる。
金融市場では英国民投票への警戒が強まっており、日米欧の国債利回りは揃って低下傾向に
6月23日に英国で欧州連合(EU)残留の是非を問う国民投票が行われます。6月10日遅くに公表されたORBの世論調査では、離脱支持が55%、残留支持が45%という結果になりました。1つの調査だけを重視できませんが、ここにきて離脱支持の大幅リードはやや懸念されます。国民投票の結果は予断を許さない状況になりつつあり、6月に入ってから英ポンドの下落が続くなど、金融市場でも警戒が強まっています(図表1)。
先週、特に顕著な動きをみせたのが主要国の国債市場で、日米欧の国債利回りは揃って低下しました。6月10日に、日本の10年国債利回りはマイナス0.155%をつけ過去最低を更新しました。ドイツでも10年国債利回りが一時0.009%とゼロ水準に接近し、過去最低を更新しました。米国10年国債利回りは前日から5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の1.64%で取引を終え、終値ベースで2013年5月以来の低水準となりました(図表2)。
こうしたなか、かつて巨額の英ポンド売りを仕掛けたジョージ・ソロス氏が現役復帰したとの報道も
今週は6月14日、15日に米連邦公開市場委員会(FOMC)、15日、16日に日銀金融政策決定会合が、それぞれ開催されます。英国民投票が近づくなか、日米双方の金融政策の行方にも注目が集まっているため、しばらくは国債市場のみならず、株式市場、為替市場についても、かなり神経質な相場展開が予想されます。このような状況下、著名投資家のジョージ・ソロス氏が市場取引の一線に復帰したとの報道が、市場関係者の間で話題となっています。
ソロス氏を一躍有名とした出来事は、巨額の英ポンド売りで英中央銀行であるイングランド銀行に立ち向かった1992年の通貨攻防です。英国は1990年、今日のユーロを生むための土壌となった欧州通貨制度(EMS)に参加しました。そしてEMSの通貨制度である為替相場メカニズム(ERM)に従い、英ポンドの変動幅をあらかじめ決められた一定の範囲におさまるように為替レートの調整を行っていました。
投票日に向け市場の緊張は高まると思われるが、最終的に英国民はEU残留を選択するとみる
しかしながら英国景気が低迷するなかで、英ポンドの為替レートは過大評価されているとみたソロス氏は、自ら率いるヘッジファンドで、大量の英ポンド売り取引を行いました。イングランド銀行は英ポンド買い介入で対抗しましたが、最終的に英国は1992年9月、EMSからの離脱を決定しました。それ以降、英国は通貨ユーロに参加することはありませんでした。
あれから約24年の時を経て、英国のEU離脱が懸念されるタイミングでソロス氏が復帰したということは、何かしら両者に深い縁を感じます。一部報道によれば、最近ソロス氏のファンドは金への投資と米国株に連動する上場投資信託(ETF)のプット・オプション(売る権利)の保有を増やしているとのことです。市場ではソロス氏が先行きの相場変動に警鐘を鳴らしているとみる向きもあり、今回の復帰は様々な憶測を呼んでいます。6月23日に向けて市場の緊張は高まると思われますが、最終的に英国民はEU残留を選択するとみています。
(2016年6月13日)
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