WTI原油先物価格50ドルは通過点か
市川レポート(No.255)WTI原油先物価格50ドルは通過点か
- 原油相場の堅調推移の背景には需給改善の見通しがあり、投機筋の売りポジション圧縮も寄与。
- 節目の50ドルでいったん達成感の可能性も、ただ本格的な地合い悪化につながることはなかろう。
- 中国経済指標と米国利上げ観測には要注意だが、原油相場の耐性は相応に高まっているとみる。
原油相場の堅調推移の背景には需給改善の見通しがあり、投機筋の売りポジション圧縮も寄与
WTI原油先物価格は、2月11日に1バレル=26ドル05セントの安値を付けた後上昇に転じ、5月26日には一時1バレル=50ドル21セントの高値をつけました。堅調推移の背景には、米国における原油生産・在庫の減少や(図表1)、国際エネルギー機関(IEA)の5月石油月報における4-6月期需要見通しの上方修正などがあります。また米国がドライブシーズンを迎えることも市場では需給改善要因とみられています。
米商品先物取引委員会(CFTC)が公表しているWTI原油先物取引のポジションをみると、石油非当業者(Non-commercial)のロング・ショート比率(買い建玉を売り建玉で割った比率)は、2月に1.4倍まで低下していましたが、5月24日時点で2.9倍に上昇しています(図表2)。比率の上昇は、売り建玉の大幅減少によるところが大きく、投機筋の売りポジション圧縮が、原油相場の上昇にも寄与していることが推測されます。
節目の50ドルでいったん達成感の可能性も、ただ本格的な地合い悪化につながることはなかろう
年初の原油安を受け、主要産油国は相場安定のため4月17日にカタールの首都ドーハで会合を開き、生産量維持に関する協議を行いました。しかしながらイランが参加を見送り、最終合意がないまま終了しました。6月2日にはオーストリアの首都ウィーンで石油輸出国機構(OPEC)の総会が開催されますが、原油価格が落ち着きを取り戻している現状、生産量の維持はすでに喫緊の課題ではないように思われます。
そのためOPEC総会では、供給過剰を解消するための生産目標の設定は、今回も行われないとみられます。ただ原油相場については、WTI原油先物価格がいったん節目の50ドルをつけたことで、ある程度の達成感が出る可能性もあります。その場合、ポジション調整的な売りに押されて原油相場が軟化すると思われますが、本格的に地合いが悪化する類のものではないため、日本株への影響も限定されると思われます。
中国経済指標と米国利上げ観測には要注意だが、原油相場の耐性は相応に高まっているとみる
OPECは最新レポートで、7月から12月に原油需給は再び均衡し始めるとの見方を示しており、需給改善期待がしばらく原油相場を支える可能性があります。ただ今後注意すべきは①中国経済指標、②米国利上げ観測の高まりを受けた金融市場の反応です。①について、悪化傾向が確認された場合は、中国の原油需要が減少するとの思惑から、原油安に触れる場面も想定されます。
②について、利上げ観測が急速に高まった場合、新興国の通貨安や株安を通じて金融市場が大きく動揺する恐れもあります。その際、リスクオフ(回避)の動きから原油相場の下落、円の上昇、日本株の下落という流れにつながることも予想されます。ただ原油相場は①、②とも昨年末から年初にかけて経験済であり、リスク耐性は相応に高まっていると思われます。
(2016年5月31日)
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