米大統領選挙後の相場展望

2016/05/13

市川レポート(No.247)米大統領選挙後の相場展望

  • クリントン氏の経済政策は増税を含むオバマ政権踏襲の現実路線、ただし増税規模は控えめ。
  • トランプ氏の経済政策は大型減税が柱の景気刺激型、ただし移民抑制で潜在成長率低下も。
  • 金融市場はクリントン大統領なら落ち着いた反応、トランプ大統領ならボラティリティ急拡大へ。

クリントン氏の経済政策は増税を含むオバマ政権踏襲の現実路線、ただし増税規模は控えめ

2016年の米大統領選挙は、民主党候補の指名が濃厚なヒラリー・クリントン前米国務長官と、共和党候補の指名が確実となったドナルド・トランプ氏による対決の構図が固まりました。そこで今回のレポートでは、両候補が掲げる経済政策を比較しながら、金融市場への影響を考えてみます。実際の相場にもまだ織り込まれていない材料ですので、かなり早い段階での見方になりますが、事前に整理しておくことも有効と考えます。

クリントン氏の経済政策はオバマ政権を踏襲する現実路線の内容です。具体的には、高所得者や巨大銀行への課税強化、インフラ投資の拡大、大学教育補助金の拡充などが含まれます。増税による歳入の増加分は教育プログラムの整備などに充てられますが、クリントン氏の増税案は、同じ民主党候補であるバーニー・サンダース上院議員の増税案に比べ10分の1以下の規模にとどまります。

トランプ氏の経済政策は大型減税が柱の景気刺激型、ただし移民抑制で潜在成長率低下も

トランプ氏の経済政策は大型減税(ブッシュ減税の約10倍)を柱とする景気刺激重視の内容です。具体的には、所得税の簡素化と最高税率の引き下げ、連邦法人税率の引き下げ、オバマケアの廃止などが含まれます。トランプ氏は、所得税と法人税の大幅引き下げによる歳入の減少分は輸入関税の大幅引き上げで補い、最終的には景気回復と成長加速による歳入の増加で財政収支は均衡するとの見方を示しています。

なおトランプ氏は移民人口の抑制を図る方針を明確にしています。これによって米国の人口増加ペースが鈍化し、労働人口の伸びも低迷すれば、企業にとっては人件費の増加要因になります。米国で人口動態が劇的に変化すれば、長期的には潜在成長率の低下につながる恐れがあります。そのためトランプ氏が考える景気回復による財政収支の均衡は、それほど簡単ではないと思われます。

金融市場はクリントン大統領なら落ち着いた反応、トランプ大統領ならボラティリティ急拡大へ

7月の全国党大会や11月の本選挙が近づくにつれ、経済政策がいくらか修正される可能性はありますが、現時点で財政収支と経済成長に与える影響を考えてみます。クリントン氏の経済政策では、増税規模からも財政赤字への影響は限定的となり、投資や消費行動にはさほど大きな変化がみられない可能性があります。一方、トランプ氏の経済政策では、投資や消費が刺激される一方、財政赤字が大幅に拡大する恐れがあります。

クリントン大統領が誕生した場合、基本的に現行の政策が延長されるため、緩やかな利上げペース、ドル安基調、株価の持ち直しが続くとの見方から、金融市場は総じて落ち着いた反応になると思われます。トランプ大統領が誕生した場合、投資・消費・輸出増という期待よりも、財政赤字の急増、悪い金利の上昇、ドル安という懸念の方が強まり、市場のボラティリティ(変動率)は格段に上昇する恐れがあります。ただ政策を法案化するのは議会であり、極端な政策が実現する可能性は低いとみています。いずれにせよ相場への織り込みはこれからですので、今後の選挙戦を見極める必要があると思われます。

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 (2016年5月13日)

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