主要アセットクラスにみる潮目の変化

市川レポート(No.239)主要アセットクラスにみる潮目の変化

  • 年初大きく混乱した世界の金融市場だが、3月以降は潮目が変化しリスクオフは後退しつつある。
  • 潮目の変化をもたらしたのは米金融当局のハト派姿勢、米ドル全面安でリスクアセットが上昇。
  • 米ドル全面安による円高ならば過度な懸念は不要、介入や追加緩和も急を要するものではない。

年初大きく混乱した世界の金融市場だが、3月以降は潮目が変化しリスクオフは後退しつつある

世界の金融市場は中国の景気減速や原油安の進行などを背景に、年初から大きく混乱しました。しかしながら3月以降の主要アセットクラスの動きをみると、金融市場に広く潮目の変化が窺えます。例えば世界の株式市場では、2015年12月31日から2016年2月29日までの間、先進国株は6.9%、新興国株は5.2%下落しました。その後、4月20日までの間に、それぞれ8.1%、9.6%上昇に転じています(図表1)。

同期間について他のアセットクラスの動きも確認してみます。世界のリート指数は2.3%下落した後、7.4%上昇しています。同様に世界のハイイールド指数は1.1%下落した後、7.1%上昇しました。さらに商品市場では、WTI原油先物価格が8.9%下落した後、26.3%上昇し、また商品市場全体の値動きを示すCRB指数も7.3%の下落後に11.2%上昇しました(図表1)。このように世界の金融市場ではリスクオフ(回避)が後退しつつあります。

潮目の変化をもたらしたのは米金融当局のハト派姿勢、米ドル全面安でリスクアセットが上昇

金融市場にこのような潮目の変化をもたらしたのは、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に対する極めてハト派的な姿勢と考えられます。具体的には、3月15日、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)や、3月29日のイエレンFRB議長の講演会において示された、「世界経済と金融情勢は引き続きリスクであり、利上げは慎重に進める」旨のメッセージです。

米金融当局のハト派姿勢を受けて、3月以降の為替市場は米ドル全面安となり(図表2)、これが金融市場で広くリスクオフの後退を促しました。すなわち米ドル全面安となれば相対的に新興国通貨が上昇しますので、これにより新興国経済に対する過度な悲観が後退し、新興国株式や商品相場が持ち直しました。その結果、投資家のリスク許容度が一段と改善し、先進国株やリート、ハイイールド債の価格を押し上げたという訳です。

米ドル全面安による円高ならば過度な懸念は不要、介入や追加緩和も急を要するものではない

米ドル全面安の下では当然ながら円は対米ドルで上昇します。ただ改めて図表2をみると、円は米ドルに次いで安いため、他の通貨に対しては円安になっています。したがって対米ドルで円高が進行しても、それが米ドル全面安によるもので、かつリスクアセットの上昇も伴っていれば、過度な懸念は不要であり、円売り介入や日銀の追加緩和も急を要しません。

4月に円相場が対米ドルで107円台の年初来高値を更新しても、日経平均株価が年初来安値を更新しなかったのは、米金融当局のハト派姿勢が多分に影響していると推測されます。円高リスクがくすぶるドル円や上値の重い日経平均株価はリスクオフの継続を連想させますが、他のアセットクラスの動きを検証すると違う景色がみえてきます。もちろんこの先、再びリスクオフの地合いが強まる場面も十分予想されますが、米金融当局のハト派姿勢とドル全面安が金融市場全体の緩衝材になる可能性があるとみています。

160421図表1160421図表2

 

 (2016年4月21日)

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