日銀3次元緩和を可能にする「基準比率」とは?
市川レポート(No.237)日銀3次元緩和を可能にする「基準比率」とは?
- 日銀は基準比率を引き上げることによって、マイナス金利適用額を減らす方向に調整ができる。
- 従ってマネタリーベース拡大やマイナス金利幅拡大の影響は基準比率の引き上げで抑制される。
- 基準比率の活用で、量・質・マイナス金利拡大という3次元緩和への技術的な対応が可能になる。
日銀は基準比率を引き上げることによって、マイナス金利適用額を減らす方向に調整ができる
基準比率とは、基準平均残高(昨年1年間の日銀当座預金の平均残高)に乗じる比率です。これによって算出される金額は、日銀が設定する3段階の金利、すなわちプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利のうち、ゼロ金利が適用されます(適用対象一覧は図表1の通り)。実は基準比率を引き上げて、ゼロ金利適用残高を増やすことにより、マイナス金利適用残高を減らすことができます。その理由は以下の通りです。
マイナス金利適用残高は、「①日銀当座預金残高-②プラス金利適用残高-③ゼロ金利適用残高」で求められます。①は量的・質的金融緩和により毎月増加しますが、②はほぼ一定のため、このままですとマイナス金利適用額は毎月増加することになります。そこで基準比率を引き上げて③を増やすことにより、マイナス金利適用残高を減らす方向で調整することが可能になります。
従ってマネタリーベース拡大やマイナス金利幅拡大の影響は基準比率の引き上げで抑制される
では③のゼロ金利適用残高を増やす方法を具体的に考えてみます。改めて図表1に目をむけると、(2)の所要準備額は預金量に応じて動くため基本的に大きく変化はせず、(3)や(5)は金融機関が利用しない限り増えません。また(4)のMRFは証券会社における証券取引決済口座であるため、全くの受け身となります。しかしながら(1)に関しては、日銀の裁量で基準比率を引き上げることができます。実際、日銀は4月11日に基準比率を従来のゼロ%から2.5%へ引き上げることを決定しました。
これによる効果は次のようになります。基準平均残高は日銀によれば約220兆円ですので、基準比率がゼロ%である限り、基準平均残高×基準比率で算出されるゼロ金利適用額はありません。しかし基準比率が2.5%に引き上げられると、適用額は約220兆円×2.5%=約5.5兆円に増加します。従って日銀がこの先、マネタリーベースの拡大やマイナス金利幅の拡大を行っても、金融機関への影響は基準比率の引き上げで抑制可能です。
基準比率の活用で、量・質・マイナス金利拡大という3次元緩和への技術的な対応が可能になる
以下、簡単な試算をしてみます。①日銀当座預金残高を260兆円、②プラス金利適用残高を210兆円、③ゼロ金利適用残高を基準比率ゼロ%で40兆円とした場合、マイナス金利適用残高は「①260兆円-②210兆円-③40兆円=10兆円」となります。現状、当座預金残高はおおむね3カ月で20兆円のペースで増加していますので、3カ月後のマイナス金利適用残高は「①(260兆円+20兆円)-②210兆円-③40兆円=30兆円」に増加します。
そこで③について、基準比率を9.0%に引き上げると、基準平均残高約220兆円×9.0%=約20兆円となるため、ゼロ金利適用となる日銀当座預金残高は20兆円増加します。よって3カ月後のマイナス金利適用残高は「①(260兆円+20兆円)-②210兆円-③(40兆円+20兆円)=10兆円」となり、当初の水準に戻ります。このように基準比率を活用することで、量・質・マイナス金利拡大への技術的な対応は可能となります。なおすでに基準比率は原則として3カ月ごとの見直しが決まっており、4月11日の引き上げによって、4月と5月の積み期間におけるマイナス金利適用額は10~30兆円程度になる見通しです(図表2)。
(2016年4月14日)
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