米国経済と金融市場の要点整理
市川レポート(No.218)米国経済と金融市場の要点整理
- 製造業の景況感に改善傾向がみられるなど、経済や金融市場を取り巻く環境に変化の兆し。
- 物価の伸びは足元で加速しFRBの目標値に近づく、雇用統計ならびに3月のFOMCに注目。
- 米国に対する過度な悲観の解消や緩やかな利上げの織り込みは、米国株にとって好ましい状況。
製造業の景況感に改善傾向がみられるなど、経済や金融市場を取り巻く環境に変化の兆し
昨年来、米ドル高と原油安が米国経済の重しとなり、外需の低迷と相俟って米製造業の低調さが目立つようになりました。一部には米国が景気後退に陥るのではないかとの懸念もみられ、利上げ観測が後退するなか米長期金利は年明け以降、低下傾向が鮮明になりました。ただこのところ米国の経済や金融市場を取り巻く環境に変化の兆しがみられるようになったので、今回はその状況をまとめてみます。
まず米国の製造業について、3月1日に発表された2月のISM製造業景況感指数は49.5と、市場予想(48.5)と前月実績(48.2)をともに上回りました。同指数の構成項目をみると、「生産」と「雇用」がともに前月から2.6ポイントと大きく上昇し、また調査対象の企業からは前向きなコメントが多くみられました。2月分は依然として製造業の景気拡大・縮小の境目である50は下回っているものの、改善傾向が窺える内容と思われます。
物価の伸びは足元で加速しFRBの目標値に近づく、雇用統計ならびに3月のFOMCに注目
次に米国の物価に目をむけると、1月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比+1.3%、食品とエネルギーを除くコア指数は同+1.7%と、ここにきて伸びが加速しています。米連邦準備制度理事会(FRB)は「長期的な物価目標(longer-run goal)」として、PCE物価指数の前年比上昇率を「+2.0%」と定義しているので、物価の伸びは目標値に近づいていることになります。
なお3月4日には2月の米雇用統計が発表されます。市場予想では非農業部門雇用者数が前月比19万5,000人増、失業率は4.9%となっており、予想に近い結果となれば労働市場の改善継続が確認されます。1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明には、「世界経済と金融情勢を注意深く監視し、労働市場、物価、見通しのリスクバランスへの影響を評価する」とありますので、3月15日、16日のFOMCでのリスクバランス判断が注目されます。
米国に対する過度な悲観の解消や緩やかな利上げの織り込みは、米国株にとって好ましい状況
最後に米金融市場の動向を確認します。直近の経済指標を受けて、期待インフレ率が上昇し、米利上げ観測も再び高まっています(図表1)。3月の利上げは見送られると思われますが、米国は今年2%台前半の経済成長を維持できるとみており、金融情勢が安定すれば年2回程度の利上げは可能と思われます。米国に対する過度な悲観が解消し、緩やかな利上げが織り込まれることは、米国株にとって好ましい状況です。
S&P500種株価指数の1株あたり利益の伸びについて、市場では2016年7-9月期に前年比でプラスに転じると予想されており、そのうちエネルギーセクターの1株あたり利益の伸びは同年10-12月期にプラスに転じる見通しです。すでに米国株のチャートはダブルボトムを形成し、ネックラインを上抜けて一段高を示唆しています(図表2)。米国株の堅調推移は日本株にも追い風であり、また緩やかな米利上げの織り込みはドル円の支援材料となる可能性があります。
(2016年3月2日)
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