元切り下げ後の金融市場展望
市川レポート(No.130) 元切り下げ後の金融市場展望
- 金融市場が総じてリスクオフに傾くなか、基準値は前日に続いて元安方向に設定された。
- ただ日本株は元切り下げで一気に弱気相場入りしてしまうような状況にはないとみる。
- 金融・財政・通貨政策全体で中国リスクの低減につながるかを判断する必要があろう。
金融市場が総じてリスクオフに傾くなか、基準値は前日に続いて元安方向に設定された
8月11日に中国人民銀行(PBOC、中央銀行)が事実上の人民元切り下げを発表し、同日の金融市場は総じてリスクオフ(回避)の動きが強まりました。元安進行によって周辺国の輸出が圧迫されるとの警戒感や、それほどまでに中国景気は悪いとの懸念が市場参加者の間に広がったためと思われます。欧米市場でも総じて株安と債券高(利回りは低下)が進み、また原油や銅などの商品価格が下落しました。
注目されていた8月12日の基準値は1米ドル=6.3306元と、前日の基準値である6.2298元から1.6%米ドル高・元安方向に設定されました。前日の終値が6.3250元水準であったことを勘案すると、当局の公表通り、為替市場の前日終値などを参考にする新しい算出方法で基準値が決められたことが分かります。なお人民元の対米ドルの1日当たり変動幅は基準値の上下2%に制限されており、前日の終値も基準値から1.5%米ドル高・元安に進んだ水準でした。この終値などを基に決定された12日の基準値は、前日の基準値からやはり同程度、米ドル高・元安方向に位置することになります。
ただ日本株は元切り下げで一気に弱気相場入りしてしまうような状況にはないとみる
日本株は8月11日、12日と続落しました。中国景気への懸念や原油安などを嫌気し、素材、資源、インバウンド消費関連を中心に幅広い銘柄に売りが広がりました。日本株は元安のペースをにらんで神経質な相場展開がしばらく続くと思われます。市場では1米ドル=6.5元程度まで元安が進むとの見方が強まっており、この水準で人民元相場が安定するか否かが、目先の日本株の落ち着きどころを探る上で1つのポイントになる可能性があります。
中国当局は、金融・財政・通貨の政策を総動員して景気対策を行っています。そのため現時点で中国リスクが直ちに顕在化する恐れは小さいとみていますが、この先当局の政策効果を慎重に見極める姿勢は大切です。ただ少なくとも足元程度のドル高円安や原油安は日本株にとって悪い材料ではなく、今回の人民元の切り下げを持って一気に弱気相場入りしてしまうような状況にはないと思われます。
金融・財政・通貨政策全体で中国リスクの低減につながるかを判断する必要があろう
為替市場では、人民元の下落に連れ、アジア・オセアニア諸国の通貨安が進行しました(図表1)。やはり中国景気への懸念や原油安などが材料視されたと思われます。加工品を輸出するタイなどは、貿易面で中国と競合関係にあるため、元安によって相対的に輸出競争力が低下する懸念があります。ただこれらの国々の通貨も人民元に連れ安となっているので、その影響はある程度緩和されるとみています。
また人民元は対円でも下落し、足元では1元=20円を割り込んで、19円台半ば近くで推移しています。対円の為替レート変動により、中国からの訪日観光客の減少が心配されるところですが、1年前の1元=16円台後半に比べれば依然として元高・円安水準にあり(図表2)、インバウンド消費が急速に冷え込むことはないと思われます。今回の人民元切り下げは、金融・財政・通貨政策による総合的な景気対策の一部であり、政策全体として中国リスクの低減につながるかを判断する必要があると思われます。
(2015年8月13日)
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