実質実効為替レートとは

市川レポート(No.93) 実質実効為替レートとは

  • 6月10日の黒田総裁発言により実質実効為替レートに対する関心が高まった。
  • 名目実効為替レートは1カ国の通貨価値を貿易相手国通貨との加重平均値で示す。
  • 実質実効為替レートは物価を勘案したもので貿易収支と為替の分析に用いられる。

 

6月10日の黒田総裁発言により実質実効為替レートに対する関心が高まった

 6月10日に日銀の黒田総裁が、「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということはなかなかありそうにない」と発言したことを受け、1ドル=124円台半ばで推移していたドル円相場は一気に1ドル=122円台半ば付近までドル安・円高が進行しました。市場では黒田総裁の真意について憶測が飛び交っていますが、その一方で今回の黒田総裁発言により、実質実効為替レートに対する関心も高まったように思われます。 

名目実効為替レートは1カ国の通貨価値を貿易相手国通貨との加重平均値で示す

 普段はあまり聞き慣れない言葉ですので、①名目為替レート、②名目実効為替レート、③実質為替レート、③実質実効為替レートと順を追って説明して参ります。①の名目為替レートとは、普段テレビや新聞で目にする1ドル=123円など、2カ国の通貨間の交換レートです。次に②の名目実効為替レートとは、1カ国の通貨価値を複数の貿易相手国通貨との加重平均値で示したものです。

 例えば円の名目実効為替レートとは、ある基準時点における円と複数の貿易相手国通貨との名目為替レートを全て100とし、その後の各通貨に対する円の名目為替レート変化率をそれぞれの貿易額のウエイトで加重平均した指数になります。具体的に計算例を示しますと、円の名目実効為替レートは基準時点で100ですが、基準時点から各通貨に対する円の名目為替レートが全て10%増加した場合、指数は110となります。つまり名目為替レートが円高となれば、指数である名目実効為替レートは上昇することになります。

実質実効為替レートは物価を勘案したもので貿易収支と為替の分析に用いられる

 ③の実質為替レートとは、名目為替レートを2カ国の物価上昇率で調整したものです。例えば名目為替レートが1ドル=100円で、米国の物価が変わらず、日本の物価が2%上昇した場合、名目為替レートが変わらなければ、実質為替レートは100円×(米国物価100÷日本の物価102)=98円と計算します。すなわち日本の物価上昇で輸出財価格が上昇するため、名目為替レートが不変なら円の為替レートは実質的に割高(円高)となるわけです。④の実質実効為替レートとは、円の実質的な価値を複数の貿易相手国通貨との加重平均値で計算したものとなります。

 6月10日に黒田総裁が言及したのは実質実効為替レートですので、デフレ脱却が実現すれば、「(実質実効為替レートが)さらに円安に振れていくことはありそうにない」という説明は理論通りです。ただ一般的にはなかなかすぐに理解することは難しいように思われます。一般に実質実効為替レートは、貿易収支と為替動向を分析する場合に用いられ、内外物価水準や複数貿易相手国と為替レートを考慮している点で、2カ国の通貨間の交換レートである名目為替レートよりも適していると考えられます。図表1は円の実質実効為替レートと貿易収支の推移、図表2はドル円の名目為替レートと貿易収支の推移を示したものです。やはり実質実効為替レートの方が分析には適していると思われます。

150616 図表1150616 図表2 

 (2015年6月16日)

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