米債務上限問題について考える
米債務上限問題について考える
- 債務上限は米連邦政府が借金できる債務残高の枠、過去何度も政治問題となった経緯がある。
- 今年は8月1日から債務上限が復活、米財務省は特例措置で対応中だがデフォルトリスクを警告。
- 与野党の思惑で債務上限引き上げは見通しにくいが、議会がデフォルトを選択することはなかろう。
債務上限は米連邦政府が借金できる債務残高の枠、過去何度も政治問題となった経緯がある
米国の「債務上限」とは、米連邦政府が国債発行などで借金できる債務残高の枠のことです。債務が法定上限に達すると、政府は議会の承認を得て、上限を引き上げます。しかしながら、引き上げられない場合は、国債の新規発行ができなくなるため、債務不履行(デフォルト)に陥ることになります。米国では過去に何度も債務上限の引き上げが政治問題となってきました。
債務上限が市場の材料となったのは、2011年、2013年、2015年、2017年でした(図表1)。2011年は、8月2日に債務上限引き上げに関する法案がぎりぎりのところで成立したものの、8月5日に米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格下げを発表し、市場に動揺が広がりました。また2013年は、10月16日に暫定予算および債務上限に関する法律が成立し、瀬戸際でデフォルトが回避されました。
今年は8月1日から債務上限が復活、米財務省は特例措置で対応中だがデフォルトリスクを警告
最近では、2019年8月2日に成立した超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2019)により、債務上限の適用が2021年7月31日まで停止されていました。適用停止期限が過ぎたため、債務上限は今月1日から復活しています。これを受けて、米財務省は現在、一部の公的年金基金への新たな資金拠出を制限するなどの特例措置を講じ、手元資金をやり繰りしています。
イエレン米財務長官は7月23日、議会上下院に対して、債務上限の引き上げなどの早急な対応を要請し、米国がデフォルトに陥れば、経済と国民生活に取り返しのつかない損害を与えるとの声明を公表しました。なお、米議会はすでに夏季休会に入っており、議会再開は上院が9月13日、上下院そろって再開となるのは、9月20日の予定となっています。ただし、夏季休会返上で協議を行うことは可能です。
与野党の思惑で債務上限引き上げは見通しにくいが、議会がデフォルトを選択することはなかろう
今月1日に復活した債務上限は、28兆5,000億ドルに設定されました。米国の国債発行残高は、直近で約28兆4,600億ドルに達しており(図表2)、米議会予算局(CBO)は、債務上限の復活に伴い、10月にも資金が枯渇する恐れがあるとの見方を示しています。デフォルトを回避するには、債務上限を引き上げる以外に、債務上限の適用を再び停止するという選択肢もあります。
実は、民主党は現在、上院で過半数の議席を獲得しており、財政調整措置により単独で債務上限を引き上げることができます。ただ、民主党は、借金が膨れ上がるこの問題について、共和党とともに対処したい考えである一方、共和党は民主党自身で解決すべきとしており、歩み寄りはみられません。そのため、先行きは見通しにくい状況となっていますが、少なくとも、議会自ら米国のデフォルトを選択することはないと考えます。
(2021年8月11日)
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