日本政府の対韓輸出規制強化について
市川レポート 日本政府の対韓輸出規制強化について
- 経済産業省は韓国向け特定品目の輸出手続きを厳格化し、ホワイト国から韓国を削除も検討。
- 今回の措置による影響は韓国企業だけに留まらず、他国の企業にも及ぶという連想が働きやすい。
- 輸出禁止でないため、全体への影響は限定的との見方は多いが、流動的な面もあり注意が必要。
経済産業省は韓国向け特定品目の輸出手続きを厳格化し、ホワイト国から韓国を削除も検討
経済産業省は2019年7月1日、輸出管理を適切に実施する観点から、韓国向けの輸出について、厳格な制度の運用を行うことを発表しました。具体的には、7月4日より、「フッ化ポリイミド」、「レジスト」、「フッ化水素」の韓国向け輸出と、これらに関連する製造技術の移転について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に許可申請を求め、審査を行うこととなります。
また、経済産業省は7月1日より、韓国に関する輸出管理上のカテゴリーを見直すため、外為法輸出貿易管理令別表第3の国(いわゆる安全保障上の友好国である「ホワイト国」)から、韓国を削除するための政令改正について、パブリックコメントの募集手続きを開始しました。仮に法令が改正された場合、軍事転用の恐れがある先端技術などを韓国に輸出する際に許可が必要となります。
今回の措置による影響は韓国企業だけに留まらず、他国の企業にも及ぶという連想が働きやすい
経済産業省が示した3品目のうち、フッ化ポリイミドは、テレビやスマートフォン(スマホ)などの有機ELディスプレーに使用される材料であり、レジスト(感光材)と、フッ化水素(エッチングガス)は、半導体の製造工程で使用される材料です(図表1)。報道によれば、日本企業のレジストとフッ化水素の世界シェアは9割程度で、韓国は3品目とも日本からの輸入に大きく依存している状況にあります。
そのため、一般には、日本からのディスプレー材料や半導体材料の輸出が遅延すると、韓国の半導体メーカーなどの生産に影響する、という連想が働きやすくなります。また、日本国内の各材料メーカーの業績にも懸念が生じます。さらに、今回の厳格な制度の運用が長期化し、韓国からの半導体の出荷が滞れば、米国や中国のスマホやパソコンメーカーにも影響が及ぶことが想定されます(図表2)。
輸出禁止でないため、全体への影響は限定的との見方は多いが、流動的な面もあり注意が必要
現段階で確認できる情報に基づいて、日本国内の各材料メーカーへの影響を考えます。まず、①フッ化ポリイミドは市場規模が非常に小さい、②レジストは対象が一部の種類に限定される、③フッ化水素は売上高に占める割合が小さいケースが多い、との見方から、国内メーカーへの影響は限定的との指摘が市場では多いように思われます。また、韓国メーカーについても、当面の在庫は確保済みとの声も聞かれます。
今回は、基本的に輸出禁止ではなく規制強化であるため、包括許可から個別許可の変更がスムーズに進めば、全体への影響は抑制される可能性があります。ただ、経済産業省が今回の措置をどのように運営するかによって、状況が変わることもありえます。また、韓国政府は世界貿易機構(WTO)への提訴を検討しているほか、当該材料の国産化を進める方針も明らかにしており、今後の動向には注意が必要です。
(2019年7月4日)
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