米国の債務上限問題:米国債は「安全資産」なのか?

2023/05/22

信用を自ら損なう
米国は、世界から信用と尊敬を集め続けねばなりません。中国が躍進する中、経済や国際政治などにおける米国の覇権を維持するためです。ところが米国は、信用を自ら損ないかねないことを行っています。

とりわけ、米国政府の債務上限引上げ問題についてです。この問題により、米国政府が発行する証券(米国債)に対する信用が揺らいでいるのです。現時点では、この問題はひとまず解決、あるいは先送りされる可能性が高いとみられます。それでも、米国政府や米国債に対する不信は、くすぶり続けるでしょう。

債務上限とは何か?

米国では、政府債務の上限が法定されています(図表1)。これを議会が引き上げない限り新規の国債発行(→債務増)を行えず、デフォルト(債務不履行)に陥る、という懸念が、数年ごとに高まります。

米国財政は、継続的な赤字です。そのため、社会保障費や国債の元利金などといった政府の支払い義務を果たすためには、国債を発行して内外の投資家から資金を借り入れねばなりません。債務残高の上限という制約によってそうした借り入れができなくなると、財政資金が枯渇し、デフォルトとなりかねません。

本当に「安全資産」?

米国債がデフォルトとなれば、投資家に対する米政府の大きな裏切り行為となります。デフォルトが一時的なものにとどまり、予定日の後日に元利金が支払われたとしても、多くの投資家は困惑するでしょう。

世界の投資家が参照する金融や投資の書籍には、米国債は「安全資産」と当然のように書いてあります。「安全資産」は、期日どおりに元利金が支払われるといったことを含意します。しかし米国債のデフォルトが一度でも起これば、米国債は「安全資産」ではなくリスク資産、と言わねばならなくなるはずです。

世界に対する影響

そうなれば、世界の金融市場や経済を大きく動揺させかねません。これまでは、米国債が主な「安全資産」であるからこそ、その利回りを基準に、米国のみならず世界中の金利体系が形成されてきたのです。

よって「安全資産」の前提が崩れれば、世界の金利体系に大きな変化が生じるでしょう。また、米国が財政赤字や貿易赤字を維持できたのは、日本や中国を含む海外の投資家などが、米国債を好んで購入し、事実上、米国経済を支えてきたからです。よって「安全資産」の地位を維持するのが、米国の国益です。

政党間の深い対立

にもかかわらず近年、米政府の債務上限問題が繰り返し発生し、金融市場参加者を緊張させています。今回も瀬戸際で上限が引き上げられる可能性が高いものの、今後もこの問題は頻発すると見込まれます。

根底にあるのは、民主党(社会保障を重視)と共和党(歳出削減を優先)との対立です。各党支持者の亀裂も深く、債務上限問題では他党を非難しています(図表2)。こうした対立や亀裂は米国の根本問題であり、解決は困難です。よって債務上限問題は数年ごとに発生し、米国に対する信用を損なうでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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