円の価値が急落

自国の通貨価値が下がって喜ぶのは、愛国心がない人なのでしょうか。必ずしも、そうではありません。円の価値が今年急落していますが（図表1）、日本の「愛国者」の中でも、円安を歓迎する人は存在します。

そのような人は、日本を憎んでいるわけではありません。しかし、円安は日本経済にとって完全に良いことだと信じているとすれば、その認識は誤りです。円は今年、主要通貨の中で最弱です。経済や為替を正しく理解している人であれば、自国通貨の弱さを歓迎せず、むしろ日本の現状に危機感を持つはずです。

為替の変動要因

他国通貨との比較により測られる通貨価値、つまり為替相場は、様々な要因で変動し、予測は簡単ではありません。ただ、根本的な変動要因は単純であり、それは他の物品価格と同様、需要と供給の関係です。

円が急落しているのは、ドルなどの需要が世界的に増える一方、円の需要が抑えられているからです。これは、高い利回りが見込める米国などの資産が好まれる一方、日本の債券などからは低い利回りしか期待できないためです。また、日銀は超金融緩和に固執しており、こうした政策は円の過剰供給となります。

日本の低成長性

日本の資産から高収益を期待しにくいのは、日本経済の成長性が低いためです。日銀が超金融緩和に固執するのも、成長性が低いがゆえに日本経済はわずかな利上げにも耐えられない、という判断からです。

「愛国者」は、それを嘆くべきです。円安誘導策だったアベノミクスも、成長率の押上げに失敗しました。いまだに利上げができないということ自体、アベノミクスの失敗を表します。岸田首相の「新しい資本主義」で経済の好転が期待されましたが、同首相の求心力は、宗教や国葬などの問題で弱まっています。

日本の大安売り

しかし、「円安は日本経済に良い」と強弁する経済学者などが、いまだに実在します。客観的な考察や、輸入品の値上がりによる国民の苦境よりも、自分は賢いのだという意地の方が、よほど大事なのでしょう。

「円安は良い」という主張の論拠は、アベノミクス開始時と同じです。輸出が伸びる上、日本企業の国内回帰が進み、雇用が増えるというのです。しかし、円の価値を下げて輸出や観光誘致、企業の国内回帰を促進するのは、日本の物品・サービス・労働力の安売りにすぎず、「愛国者」であれば喜べないはずです。

日本企業の怠慢

円安によって製造業の国内回帰が顕著になる、との期待は、すでに裏切られています（図表2）。企業のグローバル戦略では、消費市場としての各国の成長性などが重要で、為替は決定的な要素ではないのです。

輸出については、円安が多少の追い風になり得ます。日本製品（自動車も含む）は、欧州製品ほどのブランド力がなく、安売りをしなければシェアが伸びにくいからです。しかし円安に安住する限り、企業はブランド力を高める努力を怠ります。そうした日本の現状に、「愛国者」は危機感を持たねばなりません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/