英国のスタグフレーション:英国の苦境は世界の苦境を表す
米国よりも深刻な
いま経済情勢が最も懸念されるのは、英国かもしれません。その動向を、他国の金融市場参加者も注視しています。そのため最近、英国の物価指標などに対し、米国市場なども敏感に反応する場面があります。
英国では景気が低迷する中、高インフレは米国よりも深刻です(図表1)。つまり主要国のうち、スタグフレーション(景気停滞と物価高の併存)が最も懸念されるのが、英国だと言えます。英国は、米国とともに代表的な資本主義国です。よって英国の苦境は、米国などの苦境を先取りしているのかもしれません。
ブレグジットなど
ただ、英国の高インフレについては、固有の事情があります。すなわち2020年、ブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱)が実現したのです。それによる英国経済への影響は、やはり小さくありません。
英国は従来、多くの移民労働者に頼る国です。しかしブレグジットの結果、東欧などからの移民が減少しました。2020年から広がったコロナウイルスも、移民の流入を妨げました。これらのため、英国では農業、製造業、運輸業などで人手が不足し、それによる生産制約や賃金増がインフレを助長しています。
予想も極めて暗い
さらに今年、ウクライナ紛争が勃発しました。これはロシア産資源の欧州への供給を制約し、特に天然ガス相場が高騰しています。それらを受け英国では、10月からガス・電気代の上限が引き上げられます。
このような情勢を踏まえ、英国の中央銀行(BOE)は最近、厳しい見通しを発表しました(図表2)。国内のインフレ率は今年終盤、前年比約13%へ高まる、と言うのです。同時に、高インフレによる家計への打撃などにより、実質国内総生産(GDP)は減少基調が当分継続する、とBOEは見込んでいます。
BOEバッシング
これはまさしく、スタグフレーションの状態です。英国はそうした状態に陥るだろうと、事実上、BOEは認めたのです。世界的なスタグフレーションが懸念される今、英国の苦境は他人事ではありません。
英国の高インフレは、BOEが元凶ではありません。しかもBOEは、昨年12月、ほかの主要中央銀行に先んじて利上げを始めました。それでも英国では現在、BOEバッシング(非難)が強まっています。金融政策で適正な物価へ導くのが中央銀行の任務なので、BOEが責められるのは当然かもしれません。
財政政策にも限界
BOEバッシングは、政治も関係しています。英国では現在、次期首相の座をめぐり二つの陣営が争っています。いずれもインフレ抑止策を十分に示せず、それをBOEに押し付けているところがあるのです。
実際、政府のインフレ抑止策は限られます。英国の財政赤字に鑑みれば、ガス代などを抑制する補助金も限定的とならざるを得ません。一方、ウクライナ紛争などに関し、BOEには何もできません。そのように政府・中央銀行ともインフレ抑止が難しいという点に、英国のみならず世界の苦境が存しています。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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