利上げでも株高?:パウエル米FRB議長の優れた手腕

2021/12/20

世界で一番強い人

グローバルな金融市場の短期的な動きに対し、一番大きな影響力を持つ人物は、米国の大統領ではなく、中国の国家主席でもありません。それは、米国の金融政策を担う連邦準備理事会(FRB)の議長です。

今、ジェローム・パウエル氏がこの最強の職務を担っていることは、金融市場にとり、大きな幸運と言えるでしょう。これからの世界経済は、予測がますます困難になります。そうした不透明な状況下、優れた柔軟性とバランス感覚を備えた同氏のような人物こそ、FRB議長として最も適任と考えられるのです。

「一時的」を撤回

パウエル氏の柔軟性は、最近の動きが表しています。12月15日までの米連邦公開市場委員会(FOMC)で、早期利上げへの布石を明確に打ったのです。情勢の変化に対し、柔軟に対応するための措置です。

米国ではインフレ率が急上昇しており(図表1)、国民も、必需品などの値上がりを深刻視しています(図表2)。これらを背景に、パウエル氏は最近、高インフレは「一時的」という今年春からの主張を撤回しました。事実上、それまでの見通しの甘さを認めた形ですが、こうした柔軟性と謙虚さは、称賛に値します。

利上げは近いのか

具体的には、今般のFOMCで、テーパリング(FRBによる資産購入額の減額)を速める旨が決まりました。この結果、テーパリングは来年3月に完了する見込みとなりました(追加の資産購入額がゼロに)。

これにより、来年春以降に政策金利の引上げを開始、との選択肢が加わりました(資産購入は金融緩和である一方、利上げは金融引締めであり、政策の方向性が相反するため、FRBは、資産購入策の終了後に利上げを行う方針)。利上げが遅れ、高インフレが定着するリスクを、パウエル氏らは恐れているのです。

米国株は一旦上昇

利上げは、市場での資金量を抑えるので、通常、投資家は歓迎しません。しかし今般、FRBが来年に3回も利上げを行う可能性を示したにもかかわらず、15日、米国株は急上昇しました(ただ、翌日は反落)。

利上げの遅れによるインフレの高進は、利上げによる景気の抑制以上に、米国経済へのダメージが大きい、というFRBの認識に、投資家らがひとまず賛同したのです。これは、パウエル氏の優秀な説明力や、主張を謙虚に改める柔軟性のおかげで、FRBと市場との意思疎通が、うまくいっていることを表します。

パウエル氏再任へ

もちろん、前FRB議長のジャネット・イエレン氏(現在、米財務長官)も、市場で高く評価されていました。しかし民主党員の同氏は、共和党のトランプ前大統領の意向で、1期4年で議長職を終えました。

次いで2018年にFRB議長となったのが、共和党員のパウエル氏です。そして同氏は、来年2月、2期目に入る見込みです。バイデン現大統領が先月、同氏を再指名したのです(来年1月、上院による承認へ)。現大統領は民主党ですが、前大統領とは違い、党派心にとらわれない賢明な判断をした、と言えます。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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