超大型の経済対策

岸田首相は、派手ではありません。とはいえ、現実的で国際的な視野を持ち、かつ人情味もあります。よって、同首相がリーダーシップを発揮できれば、日本経済は、奈落の底に落ちることはなさそうです。

11月19日に決まった経済対策は、岸田氏の考えを体現した、極めて包括的な政策です（図表1）。短期間でまとめたわりには、良くできていると言えるでしょう。規模も巨大で、それによる財政支出額は55.7兆円と、過去最大の経済対策です。個々の施策も、革命的と言うほどではないものの、おおむね適切です。

評価は今一つだが

しかし、この超大型の経済対策に対する評価は、あまり芳しくありません。多くのメディアは、目新しさがない、などと批判します。また、エコノミストの大半は、経済効果は限定的、などと冷ややかです。

たしかに、そのほとんどは、すでに実施されてきた施策の延長、あるいは「焼き直し」です。それでも、わかりやすいものとしては、子供1人あたり10万円相当の給付金や、事業収入が減った中小企業への最大250万円の給付金があります。これらは、疲弊した家庭や企業の苦しみを、多少なりとも和らげます。

経済効果はどうか？

ただ、子育て世帯への給付金は、将来不安のため、大きな部分は貯蓄に回るでしょう。そうなれば、消費浮揚効果は限られます。また、企業への給付金については、受給資格の審査などに時間がかかります。

ほかの施策も、すぐに経済を急成長させるものではありません。例えば、研究支援として10兆円規模の大学ファンドが設置されますが、それが新技術などとして結実するのか、定かでありません。そのため、今般の経済対策による国内総生産（ＧＤＰ）押上げ効果は5.6％、との政府試算は、かなり楽観的です。

日本経済の弱体化

とはいえ、この経済対策は、向こう数年間で3～4％程度のＧＤＰ押上げ効果はあると見込まれます。それだけでも、平常時において年間1％ほど成長するのが実力とみられる日本としては、大きな効果です。

日本は、ほとんどの人の想定以上に弱まっています。実際、今年のＧＤＰ成長率は、米欧などの主要国と比べ、小幅なプラスにとどまるのが確実です。必ずしも、景気支援策を怠ったわけではありません。むしろ、多額の財政支出を行ってきたにもかかわらず（図表2）低迷しているのが、日本経済の実状です。

優しい経済政策へ

日本を根本的に活性化するのは、非常に困難です。最も効果的なのは移民受入れですが、国内保守層の反発や、外国人労働者の人権軽視という日本の評判に鑑みると、多数の移民受入れは、非現実的でしょう。

そのため、人口減少への対策などは、岸田政権が背負う来年以降の課題です。そうした対策はまだ手薄ですが、それでも今般の経済対策を、高く評価すべきです。アベノミクスとは異なり、岸田首相の「新しい資本主義」や「分配」政策は、中小企業や、弱い立場にある人々への、優しさを含んでいるからです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/