『孫氏』を読む:中国の兵法を知るために
戦いが長引くほど気力をくじく
戦争が長引けば、兵は疲弊し、国の経済は窮乏する。そう説くのは、中国古代の兵法書『孫氏(作戦編)』です。コロナウイルスとの戦いでも、それが長引くほど、国民は疲れ、経済への負荷が大きくなります。
現代の中国も、そうした孫氏の教えを、忠実に心がけているように見えます。ウイルスが流行した約1年前、世界が驚く厳しいロックダウンを一気に実施することで、感染を比較的短い期間で抑止したのです。その結果、中国経済は、ウイルスとの長期戦で疲れが蓄積した日米などよりも、先に急回復へ転じました。
激流の勢いは重い岩をも動かす
また、戦いでは、『孫氏(兵勢編)』が言うように、岩を漂わせる激流のごとき「勢い」が大切です。ウイルスとの戦いを制し、経済が回復をとげる中国の勢いについても、衰える兆しがほとんど見られません。
実際、中国経済は、輸出主導で拡大し続けています。消費も回復傾向にあるため、国内総生産(GDP)は今年、8~9%の高成長が十分可能です。そうした中、今月5~11日、北京で全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開催されました。そこで見て取れたのも、時代の勢いは東洋にあり、という自信です。
よく攻め、よく守り、勝利する
ただし、今回の全人代で採択された今年のGDP目標は、「6%以上」という成長率です。これは、かなり控えめな目標です。コロナウイルスが再び爆発的に広がるようなことのない限り、達成は容易でしょう。
このような目標は、適切な判断に基づきます。いまの中国には、経済成長の持続に加え、過剰投資で膨張した債務(図表1)の削減も必要であるからです。そうすることで、安定的な成長が可能となります。『孫氏(軍形編)』が教えるように、「攻撃」(成長の追求)とともに、「防御」(リスク管理)も重要です。
相手と自己を知れば危うからず
また、『孫氏(謀攻編)』は、相手と自己の実力を把握せよ、と説きます。たしかに「自己の実力」を、中国は冷静に見ています。それを表すのが、この全人代で採択された新5か年計画(2021~25年)です。
その中で最も注目すべきは、先端技術において自立を果たす、との目標です。中国は超大国になったとはいえ、半導体分野などの実力は十分でなく、米国や台湾などの技術に依存しています。そのような自国の弱点を、中国はよく理解しています。このため今般、研究開発費を増やしていく計画が採択されました。
戦わずして勝つのが最善である
ただ、その発表は、淡々と行われました。背景にあるのは「中国製造2025」への反省でしょう。2015年に示されたその方針は、技術面の覇権奪取に向けた野心表明と受け止められ、米国を警戒させたのです。
中国は、現状のトレンドが続けば、10年以内に名目GDP(図表2)で米国を追い越すことが、ほぼ確実です。よって、米国を刺激して現在の「勢い」を乱すのは、極力回避したいはずです。やはり『孫氏(謀攻編)』にあるとおり、中国にとって最善なのは、戦わずして勝つ(静かに米国を追い越す)ことなのです。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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