楽天証券投資Weekly 2013年5月10日 第36号
特集:2013年3月期決算発表メモ3

2013/05/10

マーケットコメント:日経平均は1万4,000円台に達する。円ドルは一時101円台。

ゴールデンウィーク明け、2013年5月7日の週の株式市場は、勢いのよい相場となりました。前週末のアメリカの雇用統計がコンセンサス以上の結果だったことを受け、一時円高に振れていた円ドル相場が再び1ドル=99円台に入りました。また、トヨタ自動車の決算が会社予想を上回る1兆3,000億円前後になるとの報道もありました。これらを受けて、週明け7日の日経平均は輸出・グローバル関連、内需・金融緩和関連、新興企業と幅広く買われました。8日も続伸しましたが、9日は後場に入りさすがにスピード調整となり、下落しました。

一方、9日のNY市場でドル円レートが1ドル=100円台に入りました。新規失業保険の週間申請件数が減少したことがきっかけになりました。10日の東京市場では更に円安となり、一時1ドル=101円台、1ユーロ=131円台に入りました。これを受けて10日の日経平均株価は前日比400円以上の大幅上昇となり、前場、後場に一時14,600円台に入りました(14時現在)。

セクターでは、トヨタ自動車本田技研工業富士重工業マツダデンソーアイシン精機などの自動車、ソニーパナソニックシャープ村田製作所京セラ日本電産日東電工などの電機・電子部品、キヤノンニコンオリンパスなどの精密、小松製作所三菱重工業などの機械、三菱地所三井不動産住友不動産などの不動産、野村ホールディングス大和証券グループ本社などの証券、ソフトバンクNTTデータ伊藤忠テクノソリューションズなどの通信・情報システム関連などが上げています。円安メリット株、内需関連株、金融緩和関連株の主なものが総上げとなっています。

また、9日発表した好決算と株式分割を評価してガンホー・オンライン・エンターテイメントがストップ高となり、これも決算内容が良かったエイベックス・グループ・ホールディングスが大幅高しています。

一方で、J-REIT各社、ディー・エヌ・エーグリーなどのソーシャルゲーム関連各社が下落しています。建設株も冴えません。バイオ関連株は株価が乱高下しています。東証マザーズ指数を見ると、新興市場には高値警戒感が出ている可能性があります。活況の中でも株式市場は銘柄の中味を吟味しているようです。

重要決算が次々に出ており、その中身が株式市場で消化されています。これまでのところ、自動車は円安メリットと北米、アジアでの販売好調の恩恵を今期も受けそうです。電子部品はスマートフォン、タブレット向け中心に今期も順調が見込まれますが、順調さの程度については大手の村田製作所京セラと、中堅のヒロセ電機などと温度差があるようです。下期は新型iPhone、iPad mini 2などの新製品が発売されると言われており、それらの部品発注がいつになるかが注目されます。

ソニーについては後述しますが、足元の円安を加味すると、会社予想業績は何とか達成できる範囲内にあると思われます。また人気のある銘柄であり、株式市場が更なる円安を見込むような中では、弱気にはなりにくい相場です。

三菱地所は今のPERを肯定するには、不十分な決算でした。ただし、不動産株は金融緩和と地価上昇とも関わります。金融緩和と地価上昇の程度を見極めて検討する必要がありそうです。

為替レートのチャートを見ると、ドル円、ユーロ円ともに、円安方向にブレイクしており、更なる円安が示唆されているように見えます(グラフ4.5)。日経平均はこれまでのように、小幅調整を挟みながら上値を追って行く動きが続く可能性があります。当面の節目は、下落中の月足の傾向線と今の株価が接触するであろう16,000円弱のところにあり(グラフ2)、ここまで順調に上昇する可能性があります。

また、楽天証券の信用取引評価損益率は5月8日に10.12%を付けました。筆者が知る2006年以降最大の値です。個人投資家の回転が相変わらず効いており、ここから見ても弱気になれない相場であると思われます。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ1 日経平均株価:日足


グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価


グラフ4 円/ドルレート:日足

グラフ5 円/ユーロレート:日足


マーケットスケジュール

2013年5月13日の週の日本での注目点は、13日の4月のマネーストック、15日の4月の大型小売店販売額、16日の1-3月GDP第一次速報、17日の3月の機械受注です。

アメリカは、13日の4月の小売売上高、15日の4月の鉱工業生産指数、16日の4月の住宅着工件数と建設許可件数、17日の5月のミシガン大学消費者信頼感指数です。

日本では1-3月期GDPが注目されます。アメリカでは、4月の住宅着工件数と建設許可件数が注目されます。

経済カレンダー
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/calendar/

特集:2013年3月期決算発表メモ3

先週に続き注目決算に関して、簡単に報告します。(注:以下の業績数字は億円未満切り捨て。)

三井倉庫2013/3期売上高1482億円(前年比38.1%増)、営業利益53億円(20.3%減)、経常利益37億円(28.7%減)、当期純利益31億円(47.2%増)、2014/3期会社予想、売上高1590億円(7.3%増)、営業利益62億円(15.6%増)、経常利益47億円(25.5%増)、当期純利益37億円(16.9%増)、EPS29.8円。

関東、関西、中部、九州など商業地、工業地帯に倉庫を多数保有しています。海外でも中国、韓国、インドネシア、タイに倉庫を持っています。また、東京の湾岸中心にオフィスビル、倉庫の賃貸用不動産を所有しています。2013/3期は、M&Aのため国際輸送部門が大幅増益でしたが、のれん代が増加したため全体では営業減益でした。ただし、不動産売却益62億円によって当期純利益は増益でした。

賃貸等不動産の簿価は2013/3期末383億円でしたが、時価は1483億円でした。2012/3期末の1458億円から増えましたが、これは地価上昇によるものです。含み益は1100億円になります。この含み益を期末純資産576億円に加えると実質純資産は1676億円となります。5月8日の時価総額は796億円ですので、実質PBRは0.47倍になります。この賃貸等不動産の含み益が大きいことが倉庫株の特徴です。

また、ネット通販の好調や、日本の景気回復とアジアの好況持続で、倉庫需要は伸びています。倉庫株は不動産関連株としても、物流の面からも重要な投資対象であると思われます。

 

富士重工業2013/3期売上高1兆9,129億円(前年比26.1%増)、営業利益1,204億円(173.9%増)、経常利益1,006億円(169.9%増)、当期純利益1,195億円(211.0%増)、2014/3期会社予想、売上高2兆500億円(7.2%増)、営業利益1,800億円(49.5%増)、経常利益1,750億円(73.9%増)、当期純利益1,100億円(8.0%減)、EPS140.9円。

好業績でした。インプレッサが日本、北米などで好調で、トヨタ自動車との共同開発のBRZが日本で好調でした。新車のフォレスターも寄与しました。連結販売台数は2012/3期64万台に対して2013/3期72.4万台と増加しました。このうち、日本の登録者が8万台から11.2万台へ、アメリカが28万台から35.7万台へ増加しました。円安メリットは営業段階で293億円ありました。

また、繰延税金資産計上に伴う法人税調整額計上によって当期純利益は大幅に伸びました。

2014/3期は国内登録者が10.1万台へ11%減少する見込みですが、アメリカは38.4万台と27%増となる見込みです。日米でフォレスターがフル寄与する見通しですが、日本ではインプレッサが一巡すると会社側は想定しています。また、2014/3期の為替前提は1ドル=90円です。

ただし、足元の販売動向からみると会社予想台数には上乗せ期待が持てそうです。また、1ドル=1円の円安で75億円の円安メリットが営業段階で発生します。このうち、為替予約を約3分の1入れますので、経常利益に反映されるのは3分の2ですが、仮に1ドル=100円が続くと、営業利益で750億円、経常利益に500億円、当期純利益に310億円程度の上乗せ効果が発生します。販売台数の上乗せ期待もありますので、2014/3期は当期純利益でも増益になる可能性があります。

業績と株価をポジティブに考えたいと思います。

 

トヨタ自動車2013/3期売上高22兆641億円(前年比18.7%増)、営業利益1兆3,208億円(271.4%増)、税引前当期純利益1兆4,036億円(224.3%増)、当期純利益9,621億円(239.3%増)、2014/3期会社予想、売上高23兆5,000億円(前年比6.5%増)、営業利益1兆8,000億円(36.3%増)、税引前当期純利益1兆8,900億円(34.6%増)、当期純利益1兆3,700億円(42.4%増)、EPS432.5円。

2013/3期は、大きく業績が回復しました。販売台数を見ると、日本が2012/3期207.1万台から2013/3期227.9万台へ増加、北米が187.2万台から246.9万台へ増加したほか、アジアも132.7万台から168.4万台、その他(中東、オセアニア、アフリカなど)128.4万台から164.0万台へ増加しました。総販売台数は735.2万台から887.1万台へ増加しました(ダイハツ日野を含む)。

当期純利益の増益額6,786億円の内訳は、営業面の努力6,500億円、原価改善の努力4,500億円、為替変動(円安)1,500億円のプラスに対して、諸経費増加3,000億円、法人税他の増加3,259億円などのマイナス要因がありました。

2014/3期は連結販売台数910万台を会社側は予想しています。国内はエコカー補助金の反動で減少する見込みですが、海外は北米、アジア、中近東、オセアニアなど中心に増加すると思われます。また、国内も足元は悪くない状況です。台数は上乗せ期待があります。

為替感応度は1ドル1円の円安で約400億円、1ユーロ1円の円安で約40億円の円安メリットが営業段階で発生します。為替予約の程度は多くない模様なので、この円安メリットのほぼ全額が経常利益に反映される見込みです。会社側の為替前提は、2013/3期1ドル=83円、1ユーロ=107円に対して、2014/3期1ドル=90円、1ユーロ=120円です。1ドル=100円台、1ユーロ=131円台の円安が続けば、ドルで4,000億円、ユーロで440億円、計4,440億円の上乗せ要因が生じます。単純に会社予想に上乗せすると、営業利益は約2兆2,400億円になります。

楽天証券では5月1日付けのトヨタ自動車のレポートで、2014/3期営業利益予想を2兆1,800億円としましたが(ただし、為替前提は1ドル=97円、1ユーロ=127円)、この予想と投資判断A、目標株価レンジ7,500~8,000億円は変更しません。今後は、為替だけでなく、台数の増額期待、コストダウンの成果(会社側の2014/3期想定は1600億円であり、従来の年間3,000億円よりも慎重になっている)への期待があります。

トヨタの決算は、トヨタと自動車セクターが、今後の日本株投資にとって最重要のテーマの一つであることを改めて確認させるものでした。業績と株価をポジティブに考えたいと思います。

 

三菱地所2013/3期売上高9,271億円(8.5%減)、営業利益1,183億円(19.1%減)、経常利益923億円(23.4%減)、当期純利益455億円(19.5%減)、2014/3期会社予想、売上高1兆700億円(15.4%増)、営業利益1,600億円(35.2%増)、経常利益1,220億円(32.1%増)、当期純利益580億円(27.5%増)、EPS41.8円。

2013/3期は、主力のビル事業で賃料引き上げを優先したこと、マンション販売で引き渡しが遅れ翌期に販売が計上される期ズレが発生したことなどから、営業減益となりました。会社予想営業利益1340億円も同じ理由で未達となりました。

2014/3期は、住宅事業で新築マンション販売が増えること、特に1億円以上の高額物件の動きが良くなっていること、ビル事業も増益が見込まれることから。35%営業増益を会社側は見込んでいます。

2013/3期末の賃貸等不動産の貸借対照表計上額は3兆1,929億円、時価は5兆2,605億円、含み益は2兆676億円でした。2012/3期末に比べ含み益は6.3%増加しました。地価上昇の効果もあると思われます。この含み益を2013/3期末純資産1兆3,660億円に加えた実質純資産は3兆4,336億円、9日の時価総額は4兆418億円、実質PBRは1.18倍です。低くはないが、高くもない数字と思われます。

三菱地所の株価は、単に同社の業績を反映するだけでなく、大幅金融緩和によって期待される地価上昇と、それによってもたらされるであろう不動産株相場を表象するものです。従って、PERが市場平均を上回るものであっても(2014/3期予想PERは69.5倍(5/9))、地価上昇が三菱地所をはじめとする不動産会社の含み益を拡大し、それが賃料引き上げや物件販売となってフローの収益に結びつくことを先回りして株式市場では不動産株が買われています。ただし、賃料引き上げが当社収益に結び付くにはまだ時間がかかりそうだということが決算でわかってきました。株価は調整に向かう可能性がありますが、金融緩和がこのまま続いた場合、あるいは、円安相場が過熱した場合、再度不動産株に物色がまわってくるのかどうか、株式市場の先行きを見るうえで重要になると思われます。

 

ソニー2013/3期売上高6兆8,008億円(4.7%増)、営業利益2,301億円(前期は672億円の赤字)、税引前当期純利益2,456億円(同831億円の赤字)、当期純利益430億円(同4,566億円の赤字)、2014/3期会社予想、売上高7兆5,000億円(10.3%増)、営業利益2,300億円(0.0%増)、税引前当期純利益2,100億円(14.5%減)、当期純利益500億円(16.2%増)、EPS349.5円。

2013/3期は、特に4Qに資産売却を加速させたことで、通期では営業黒字に転換しました。営業利益に算入されている資産売却は、エムスリーの一部株式売却と残りの持ち分の再評価益計1,222億円、米国本社ビル売却益655億円、ソニーシティ大崎の土地、建物売却益423億円、ケミカルプロダクツ関連事業売却益91億円、合計2,391億円です。これを単純にソニーの2013/3期営業利益2,301億円から引くと、2013/3期のソニーの実質営業利益は90億円の赤字だったと思われます。

一方、音楽、映画、金融部門は順調で、業績を底支えしました。ソニーの一面はエレクトロニクスメーカーですが、もう一面は世界的なエンタテイメント会社、更にもう一面は、エンタテイメントのハード、ソフトに金融を組み合わせた、世界的にもユニークなコングロマリッド(複合企業)であるというものです。日本の株式市場にニューマネーが流入している中で、ソニーのエレクトロニクスメーカー以外の側面、エンタテイメント会社やエンタテイメント・コングロマリッドであるという側面に注目して、そこを評価して投資するという流れが、出来つつあるのかもしれません。

会社側は2014/3期営業利益見通しを2,300億円としています。実質赤字から2,300億円の黒字にどうやってなるのか。会社側の説明では、テレビの黒字転換(テレビ事業の営業損益は、2012/3期2,075億円の赤字、2013/3期696億円の赤字、2014/3期会社見通し、黒字化)、ソニーモバイルの黒字化(モバイル・プロダクツ&コミュニケーション部門の営業損益は、972億円の赤字)などで、黒字転換可能というものです。また、会社予想営業利益2,300億円の中に為替の円安メリットが約600億円強含まれています。

また為替の前提レートは、1ドル=90円、1ユーロ=120円、為替感応度は1ドル1円の円安で30億円のマイナス、1ユーロ1円の円安で70億円のプラスになります。今の為替レート(1ドル=100円台、1ユーロ=131円台)が続けば、営業利益に対して約400億円の上乗せ要因が発生します。

再建へ向けたリストラが進捗していることは評価できます。また、円安メリットが会社予想で600億円、足元の円安が続くとすれば合計約1,000億円あるため、今期会社予想の営業利益2,300億円は、まだ不透明さを残しながらも、何とか実現できる範囲にはあると思われます。

また、映画、音楽、金融の将来性を評価して、あるいは今年年末に投入される予定の「プレイステーション®4」に期待して投資する動きが続くかもしれません。

 

エイベックス・グループ・ホールディングス2013/3期売上高1,387億円(14.7%増)、営業利益140億円(14.4%増)、経常利益131億円(24.5%増)、当期純利益73億円(48.4%増)、2014/3期会社予想、売上高1,610億円(16.0%増)、営業利益156億円(11.2%増)、経常利益156億円(19.2%減)、当期純利益70億円(4.4%減)、EPS166.9円。

2013/3期は、NTTドコモとの合弁事業である携帯電話向け映像、音楽配信サービスの「dビデオ」が好調でした。dビデオが入る映像事業の営業利益は63億円(前年比2.5倍)に拡大しました。dビデオは月額定額525円ですが、加入人員が2012/3末73万人から2013/3末413万人に確認したことで利益は大きく伸びました。

また、マネジメント/ライヴ事業も好調で、同営業利益は25億円(前年比71%増)となりました。「東方神起」、「SUPER JUNIOR K.R.Y.」中心にK-POPが好調で、総動員数は2012/3期139万人から2013/3期185万人に拡大しました。J-POPなどの音楽事業は減収減益が続きましたが、dビデオとライヴが牽引しました。

2014/3期も増収増益が見込まれます。2013年2月にソフトバンクとの合弁映像配信事業「UULA(ウーラ)」を開始しました。2014/3期会員数はdビデオと(以前から運営している)BeeTV合わせて750万人(2013/3期末539万人)、ウーラ250万人(28万人)、計1,000万人(567万人)と予想しています。ウーラは先行投資のため約20億円以上の赤字になる見込みですが、dビデオが大きく寄与すると思われます。

また、ライヴも順調に拡大すると思われます。

dビデオ、ウーラのような月額定額のオンライン配信事業で1,000万人達成できれば、日本では他に例をみない巨大ネットビジネスになります。将来性は大きいと思われます。また、K-POP人気には根強いものがあります。業績と株をポジティブに見たいと思います。

表2:主要企業の2013年3月期決算発表予定日


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楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
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