「米国株の不安定な上昇」

2024/05/17

今週の株式市場ですが、これまでのところ、米国株の上昇が目立っています。とりわけ、15日(水)の取引では、NYダウ、S&P500、NASDAQの米主要株価指数が揃って最高値を更新する動きを見せました。

その背景には、この日に発表された注目の米経済指標(4月分の消費者物価指数と小売売上高)の結果がインフレ鈍化と消費の減速を示すものとなり、米金融政策の利下げ観測が強まったことが挙げられます。

株式市場では年内に2回の利下げ実施を前提に織り込みつつあるようですが、現時点で起きているのは、先ほどの米消費者物価指数や小売売上高をはじめ、最近になって公表される米経済指標が弱いものが増え始めきたことで、米長期金利(10年債利回り)が4.7%台から4.3%台へ低下傾向となっていることです。

確かに、金利の低下は株式市場にとってポジティブではありますが、これまでの動向を振り返ると、最高値を更新した米国株市場がどこまで上値を伸ばせるかは微妙かもしれません。チャートで見た米国株市場は、昨年10月に底打ちしてから長期の上昇トレンドを描いているように見えますが、いくつかの局面に分けられます。

そもそも、米国株が上昇に転じたきっかけは、「米FRB(米連邦準備理事会)が2024年にも利下げを開始する」といった見方が高まったことでした。NYダウは10月下旬の32,000ドル台後半から12月末の37,000ドル台へと、約2カ月間で5,000ドル以上も上昇したわけですが、当時の市場は「2024年に6回の利下げ」を想定していました。

2024年を迎えてからは、思ったよりも根強いインフレと、堅調な米国経済が続いたことで、利下げの開始時期と回数の見通しが減少したことで、金融緩和による買いが後退したものの、その一方で買いの原動力となったのは、AIをテーマとしたハイテク・IT企業への業績期待でした。こうした流れを受けて、NYダウは3月21日の取引時期間中に39,889ドルまで上昇して行きました。

ただし、4月に入ってからのNYダウは、利益確定売りや、中東情勢への不安によるインフレ継続への警戒感から売りに押され、年初時点の株価まで水準を切り下げて行きました。この時期に本格化した企業決算シーズンも、業績への期待値が高過ぎたこともあり、好決算でも売られる銘柄も多く、株価上昇の材料とはなりませんでした。

つまり、足元の米国株市場は上昇しているとはいえ、企業業績は過度な期待を修正しているタイミングであり、当面は「下値を拾えても積極的に上値を追える」材料になりにくいこと、また、利下げ期待についても、昨年と比べると楽観的な見通し自体は後退しており、今後もインフレと景況感次第ではさらに後退する可能性があること、そして、景況感が想定以上に悪化してしまうシナリオも残されています。

来週には米半導体大手のエヌビディアの決算が予定されていることもあり、まだ株価上昇の余地はありそうですが、売りに転じた場合には、思ったよりも下落することも考えられるため、注意しておきたい局面がしばらく続くかもしれません。

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