株価上昇と「強気の罠」

2023/03/31

3月最終週となった今週の国内株市場ですが、株価の戻り基調が目立つ印象となっています。とりわけ29日(水)の取引では、日経平均の終値が27,883円まで上昇し、節目の28,000円台回復も見えてくるところまできました。

こうした株価上昇の背景として、相場の地合い改善が挙げられます。最近の市場が警戒していた金融不安について、その発端となった米シリコンバレーバンク(SVB)の買い手が決まったことや、米当局が緊急融資ファシリティーを拡張させるなど、さらなる金融機関への支援を検討していることが報じられたことで市場に安心感をもたらしました。

さらに、29日(水)の大幅上昇については、中国絡みの材料が追い風となりました。具体的には、28日(火)に中国ネット通販大手のアリババ集団が、持ち株会社制に移行し、ネット通販やクラウド、物流など6つの事業グループに分割・再編すると発表したことで同社の株価が大きく上昇しました。これまでアリババをはじめとする中国のIT・ハイテク企業の多くが、中国当局の締め付けに苦しんでいましたが、今回のアリババの発表が当局の姿勢が軟化したことの表れと受け止められました。

これを受けて、日本株市場でも同社に出資しているソフトバンクグループの株価が上昇し、この日の日経平均を60円ほど押し上げています。

中国では昨年11月にも、当局が強力に進めていた「ゼロコロナ政策」が一気に緩和し、中国の経済再開期待が高まって、株価が上昇した経緯があっただけに、今回も中国への期待が持続できるかも今後の相場の焦点のひとつとなりそうです。

ただし、中国というテーマについて過度な期待を持つことには要注意かもしれません。

まず、今回のアリババの発表によって、同社の業績がさらに成長できるかは不透明です。2月23日に公表された決算で、部門別の利益状況を見ると、国内のEコマース事業は黒字であるものの、その他の部門(海外Eコマース事情、国内商業部門、物流事業、クラウド事業、デジタルメディア・エンターテイメント事業)はすべて赤字となっています。分割されたそれぞれの事業が成長し、黒字化へと向かう道筋が見えてくるかが重要になってきます。

また、先週の中国では、不動産大手の恒大集団が債務の再編案を発表したことも注目されましたが、香港証券取引所経由で公表された資料のヘッドラインを見ると、債務の再編案以外にも、これまで「現金は不足しているが、資産は十分にある」と説明してきた同社が、実は2021年末の段階ですでに債務超過に陥っていたことが判明したほか、中国国内で1億元を超える訴訟を789件抱えているなど、かなり厳しい状況であることが明らかになっています。

最近までの中国は、ゼロコロナ政策の撤廃以降、積極的な経済政策方針や、これまでの厳しい規制の緩和などを経て、順調に経済が回復しつつあるような報道が増えてきていますが、実際にはあまりうまくいっていない可能性があります。

欧米の金融不安も景気退懸念と相俟って、必ずしも払拭されたわけではなく、仮に目先の株価が上昇したとしても、そのはしごが外されるきっかけとなる不安要素は増えており、相場の「強気の罠」への警戒感を保持しておく必要がありそうです。

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