米中貿易戦争と中国のアキレス腱
~2015年型中国危機の再現はない~

2018/07/06

【ストラテジーブレティン(202号)】

(1) 貿易戦争、人民元急落、中国株と元下落との共振が悪夢を呼び起こす。確かにトランプ氏の挑戦が不確実性を高めている

トランプ政権が仕掛けた貿易摩擦、特に米中貿易戦争が市場を震撼させている。特にメインターゲットとされる中国は人民元の下落と株価下落の悪循環が始まった。人民元は摩擦が始まった3月末以降6%と2015年以来の急落、上海総合指数も3月以降17%と突出した下げとなっている。「中国リスク」を引き金にしたグローバル投資家の投機売りは日米など先進国株式にも及び始めた。7月6日の米中の追加関税の発動期限を控えて不安心理は強まっている。株式と通貨共振は2015年夏から16年初めの相場急落「チャイナ・ショック」を彷彿とさせ、その再来懸念が強まってきた。米中貿易戦争が報復の応酬に結び付けば、世界経済が想像外のダメージをこうむる可能性も、完全には排除できず、市場が売り圧力に対して脆弱であるのは、当然である。

(2) だが今は危機深化の時ではない

しかし今回と2015年には決定的な相違があり、深刻な市場崩落や経済悪化は回避されるだろう。第一に中国のファンダメンタルズが2015年とは異なり比較的堅調である。図表3~6に示すように、2015年の中国経済は深刻な調整場面にあった。不動産投資、鉄道貨物輸送量、粗鋼生産量、発電量などミクロ指標がすべてマイナスに転じるというリーマンショック時以上の経済悪化があったが、今回はいずれも堅調な増勢を続けている。

貿易摩擦の中国経済に対する影響は、関税引き上げによる競争力減退、貿易摩擦激化による不確実性の高まりと投資意欲減退など看過できないが当局の対応も素早い。中国当局がすかさず預金準備率を0.5%引き下げた(7月5日実施)のは、その危機意識の高まりのためである。人民元安と株価下落、金融不良債権問題の連鎖が2015年型の不安心理を高めることを中国政府は望まず、摩擦の応酬の妥協点を探るのではないか。

 

 

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