米中貿易戦争勃発~トランプ政権の優先順位、経済・内政から地政学へ~
【ストラテジーブレティン(196号)】
(1) 全ての事柄は米中貿易戦争を軸に考えるべきだ
コーン氏から貿易ハードライナー(ロス・ライトハイザー・ナバロ氏)へ
とうとうトランプ大統領が、中国に対米貿易黒字削減計画の提出を求めた模様である。一連の関税問題(鉄鋼・アルミ輸入関税)、貿易摩擦(太陽光パネルと大型洗濯機に対する通商法201条に基づく緊急輸入制限発動など)はすべて対中貿易戦争の脈絡でしか理解できない、のではないか。GS出身の経済司令塔コーンNEC(国家経済会議)議長が辞任し、脇に追いやられていた対中強硬派ピーター・ナバロ氏が復権していると報道されている。規制緩和、税制改革、不法移民問題と矢継ぎ早に課題を片付けたトランプ氏が、今や対中貿易戦争を政策の中心に位置づけたことは明らかである。
対中経済封じ込めが米国の最優先政策課題に
個人崇拝に進む独裁国家の様相が見えてきた以上、中国をいかに封じ込めるかは米国の最優先課題であることが明らかになっている(以下の、The Economist誌(3/3)の記事、「How the West got China wrong」と産経新聞社、古森義久氏のコメント「甘い期待は終了、大転換を迎える米国の対中政策」参照)。就任初日に中国を為替操作国に認定する、とのトランプ氏の選挙公約がいよいよ実施される段階に入ったのである。中国の経済台頭を放置すれば、独裁国家中国が米国覇権を奪い世界秩序が大転換することは明らか。その中国は対米フリーライド(=巨額の対米貿易黒字)でここまで成長した国であり、この中国のフリーライドをいかに止めるかに、トランプ政権の真の狙いがある。それを理解できないコーン氏の辞任は当然の成り行きであろう。
関税も北朝鮮問題も政策軸の基底は対中政策にあり
今や米国政府の最優先政策のターゲットが中国になった以上、北朝鮮問題もその枠の中で処理されるはずである。トランプ政権の対北朝鮮政策が宥和色を強めているが、北に譲歩を求めつつ武力攻撃を抑制する、との選択肢しかないだろう。対北武力行使はみすみす中国の付け入るスキを増やす可能性が強いのだから、選択肢にはなりえない、と考えられる。また対中以外の貿易摩擦は深刻化しないし、ドル安にもならない、と考えられる。これら一連の政策の変化の投資へのインプリケーションはポジティプである。