新大統領が米国の新時代を開く可能性
【ストラテジーブレティン(171号)】
恵まれた次期大統領の発射台
米国経済は人々の悲観的観測とは裏腹に、極めて恵まれた条件を備えている。①情報インターネット革命に支えられた空前の企業収益、②世界最強のイノベーションに基づく産業競争力、③低金利かつ潤沢な投資余力(=高貯蓄)、④健全化した財政、⑤抑制されたインフレ、等である。これらの好条件を自由に駆使して次期米国大統領は、豊かな経済便益を国民に提供できる有利な立場にある。当社は、トランプ氏であれヒラリー・クリントン氏であれ、次期米大統領は経済成長率の加速、株高、ドル高を実現できる可能性が大きいと考えてきた。
米国の経済成長率が高まらないことや経済長期停滞論、格差拡大、白人貧困層の不満、過剰な金融規制によるリスクテイクの困難性等は、本質的困難ではなく、上記の好条件を駆使すれば解決可能な事柄である。またオバマ大統領が米国はもはや世界の警察官たり得ないと述べ、あからさまに覇権を誇示する姿勢を控え、他方で米国が主導している国際秩序が挑戦されつつあることが、米国の地盤沈下の証ととらえられている。しかしそれも米国の軍事力の低下というよりは、力の行使の問題であり、修正は可能である。
次期大統領がトランプ氏に決定した今、米国の政治と経済の新たな胎動を想定する必要がある。トランプ氏勝利が決定的となり同氏の保護主義的スタンスへの懸念からアジア市場では大きく売られたドルと日本株、米国株式先物が、ニューヨーク時間で完全に下落分を埋め戻したことは、トランプ氏であっても、予想される政策は市場フレンドリーなものになる可能性が高いことを示唆している。
レーガン政策との類似性、財政・規制緩和・軍事力増強
トランプ氏の攻撃的発言、矛盾し到底実現できそうもない断片的政策、政治経験がなくはっきりしたアドバイザーも見当たらないこと等、今後の政権運営には不確実性や不安がある。しかし、選挙が終わった今、有権者を引き付けるために使ったレトリックは排除され、整合的、実現可能な政策体系が形成されていくことは間違いない。それがどのようなものなのか。
トランプ氏の台頭をもって伝統的共和党が崩壊したなどとする見解がみられるが、むしろ台頭の経緯や政策において、トランプ氏とレーガン大統領との類似性に着目したい。1980年大統領に当選した、反共タカ派のレーガン氏は、それまでのワシントンが主導した東西冷戦雪解け協調ムードを批判し、ソ連を「悪の帝国」と呼び、軍拡競争を仕掛け国防費を大幅に増額した(ソ連はその軍拡競争に敗れ体制崩壊に至ることになる)。軍拡と同時に国内経済の建て直しのための大幅減税と規制緩和が実施され財政赤字が拡大した。またインフレ抑制のための金融引き締め、その結果としてのドル高というポリシーミックス、レーガノミックスが展開された。それは新自由主義的小さな政府を志向し、サプライサイド改革をしながら、ケインズ的需要政策を遂行するという、当時の経済理論からすれば矛盾に満ちたもので「ブドゥー(呪術)経済学」と批判されたが、経済と地政学の両面で大きな成果を上げた。