中国の衰弱でグローバル分業参画の機会が高まる新興諸国
【ストラテジーブレティン(143号)】
衰弱顕著の中国経済
ついこの間まで世界経済の機関車であった中国が突如最大のリスク要因になっている。先ず足元の経済の衰弱が顕著である。鉄道貨物輸送量、発電量、粗鋼生産量、輸入数量などは軒並み前年比マイナス領域に陥っている。工業生産増加額も2010年ピーク時20%増、13年10%増、14年8%増から2015年に入って以降5~6%増に低下している。成長をけん引してきた設備投資と不動産投資は完全に失速した。不動産価格が下落に陥るなど7%成長とは程遠い経済の衰弱ぶりである。消費も減速顕著。自動車販売は 4、5、6 月と3か月連続のマイナスになった。
また1年で2.5倍という突出した株価上昇が先月まで進行していたが、そこから1か月で35%の株価暴落がおこった。企業破たんや経済急減速により収益悪化が推測されており、本源的企業価値衰弱の下でのここ 1 年間の株価急騰は明らかにバブルであった。しかし中国当局はこのバブル崩壊を容認できず、常識を超える下支え策を打ち出し、下落を食い止めた。当局の大号令に従った大手証券会社 21 社連合による 1,200 億元(約 2 兆 4,000 億円)規模の上場投資信託(ETF)購入、新規株式公開(IPO)の承認凍結、大量保有株主による株式売買の半年間停止、「悪意ある空売りの懲罰」などである。
チャイナプラスワンの恩恵も
中国経済の衰弱はもはや明らかであろう。これが世界経済にどのように影響していくだろうか。対中ビジネスの悪化などマイナス面とともに、中国の後退により恩恵を受ける国も出てくるのではないか。2000 年からの新興国の台頭、BRICS ブームは中国の台頭によるグローバリゼーションの受益者の産業連鎖によるものであった。爆食中国の資源需要が BRICS ブームを形成したが、中国の減速失速とともにブームは消滅しつつある。もっとも中国の台頭は中国固有の利点によるものではなく、チープレーバーの国際分業への動員力が優っていたということなので、他国も追随できる。しかもいまや中国の賃金は新興アジア諸国最高となり、中国生産の競争力は著しく低下している(図表 1)。今後、国際分業において中国が地盤沈下していく中で、チャイナプラスワンによる恩恵を受ける諸国が台頭していくだろう。