勝利に近づく、「死に至る病」との闘い ~YCC修正がインフレ期待を高め株高をもたらす
【ストラテジーブレティン(323号)】
「死に至る病」cash is king mentalityに冒されている日本
日本経済の諸悪の根源はデフレであり、デフレの起点にあるものがデフレ・マインドだ。「デフレだから現金で持っていた方がいい」という、極端な現金志向が、日本を何をやっても駄目な国にしてしまった。お金はものに変わり持ち主が変わることによって、循環し価値を高めていく。それが資本主義である。
しかし、デフレによりお金を持ち続ければ価値が増えるという錯覚が共有されるようになり、日本ではお金の循環が止まってしまった。お金は経済の血液であるから、循環が止まると人と同じように経済も死んでしまう。デフレはマルクス経済学でいう貨幣の形態転換(G―W―ΔG)の否定である。資本主義は無限の価値増殖の連鎖であるから、貨幣の形態転換の否定は、資本主義の死でもある。日本資本主義が貨幣が貨幣のまま保存されるという「死に至る病」に冒されているという本質的認識が重要である。この無為の正当化は経済だけでなく、広く人々の行動を抑制し、心理学でいう「学習性無力感」=無気力症候群を定着させてしまった。
日本のデフレの深刻さに対して、我々はあまりにも鈍感すぎた。白川前日銀総裁は「1998年から始まった日本のデフレは2012年までの14年間で4%弱、年平均で0.3%の緩やかなもので、数年間で20~30%も下落し失業率も急増した1930年代のデフレとは大きく異なる」「本当の課題はデフレ脱却ではなかった」(東洋経済2023年1月21日号)と述べ、デフレのリスクを強調しすぎることを批判している。確かに2000年代初頭においては、マイルドな日本の物価下落は、デフレスパイラルとは異なり、深刻なものではないとも思われた。しかし今日に至って振り返ると、長期にわたるデフレが日本人のメンタリティーを根底から変え、アニマルスピリットを破壊してしまったことを認識しないわけにはいかない。
機能不全に陥った金融市場
いくら企業が富を生み株式の本源的価値が高まっても、デフレが続く限り、現金を持ち続けるほうが有利になる。日本企業の収益力は著しく高まり、利益は史上最高水準にある。にもかかわらず株価が低迷し極端な割安の状態にある。日本の金融市場がまっとうな価値評価に基づく、資本配分の場として全く機能しなくなっている。
日本と米国の家計の資産配分(年金保険の準備金を除く)を比較すると、日本はリターンゼロの現預金・債券が全体の76%と大部分を占め、配当利回り2.5%、益回りで見れば8%と著しくリターンが高い株・投信はわずか20%の構成となっている。