Point of No Return、米国の対中金融制裁が俎上に
~慎重な投資姿勢を~

2020/07/01

【ストラテジーブレティン(255号)

 

昨日(6月30日)、香港の自治と民主主義を根底から奪う「香港国家安全維持法」が中国全人代常務委員会で制定され、即時施行された。香港の民主主義と自治が失われ、一国二制度が終わった。二度と元には戻れない、Point of No Returnに至ったと考えざるを得ない。世界は熾烈な米中冷戦へと展開していくだろう。

「一国二制度」の否定は即、「一世界二制度」の否定
米ソ冷戦終結以降の世界は、リベラルデモクラシーに基づく資本主義と、共産党独裁体制の中国が共存する、言わば「一世界二制度」であった。体制は異なっても、ともに世界経済の繁栄という共通の利益に立脚していた。体制・価値観を異にしていても、相互に相手に対する尊敬と慎みを共有していた。その結節点であり象徴が「香港における一国二制度」であった。習近平政権は香港での一国二制度を葬ったことで、「一世界二制度」を自ら壊しつつある。

相手に対する敬意と慎みが失われれば、経済的利益が容易に犠牲にされ、市場は平穏ではいられなくなる。世界中がコロナパンデミックで大混乱に陥っている間隙に乗じて19~20世紀型ともいえる「帝国主義的利益追求」に走る習近平政権を前に、リベラルデモクラシー諸国も経済的コストを払ってでも中国の膨張を制止せざるを得なくなる。より具体的に言えば、リベラルデモクラシー諸国は香港の民主派を支援するために生活水準を切り下げる覚悟があるかどうかが問われる。

英国が1997年、租借地新界地区とともに自国領であった香港島と九龍半島(アヘン戦争によって獲得した)を共に中国に返還したのは、中国鄧小平氏が「一国二制度」を50年間(2047年まで)維持すると約束したからである。今回の香港国家安全維持法はその約束を破った。次のリスクは台湾に向かう。香港には米英の利権があること、苛烈な民主勢力の弾圧が予想されること。情報管制は反発を生むこと、など波乱は不可避である。

「体制共存」の方便(偽り)が露呈した
世界世論に聞く耳を持たない中国にも論理はある。中国主権が脅かされているという危機感である。昨年の「逃亡犯引き渡し条例撤回」時に見られた、人口740万人の香港で発生した100万人規模の抗議デモの勢いを今止めなければ、永遠に香港は中国に同化しない。それを阻止するのは今しかないという判断であるが、その認識は正しいだろう。

ことの本質は米国覇権、リベラルデモクラシーの下での共産中国との共存という方便(偽り)が通用しなくなったことにある。それほど急速に中国がプレゼンスを高めてきたわけである。習近平政権は、2018年以降のトランプ政権による貿易戦争突入やファーウェイ叩きに直面して融和姿勢に徹していた。鄧小平氏の「韜光養晦路線(爪を隠して時を待つ戦略)」に戻ったかに見えたのも束の間、コロナパンデミックを機に覇権追及を隠そうともしなくなっている。第二次世界大戦以降の国際秩序は、米ソ冷戦、米国主導下の「一世界二制度」の時代を経て、米中対決の時代に入ったといえる。

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