高市さんは100%正しい - 日経平均5万円とAI時代の働き方

  • 物価高対策は賃金を上げるのが基本
  • ロボットやAIによる効率アップは「労働生産性」が高まったといえるか?
  • AIの時代だからこそ、がむしゃらに働くしかない

僕は神戸大学の大学院・経済学研究科の博士後期課程を修了し博士号を取得している。経済学博士である。博士論文のタイトルは「日本の上場企業の生産性・無形資産と株価」である。その後も生産性をテーマにした論文を数本書いており、その中には査読付き論文も含まれる(うち1本は海外のジャーナルにAcceptされた英語の論文である)。生産性についての研究を学会で発表したり講演で語ったりしてきた。生産性は僕の専門分野である。

先週登壇した某講演会で出席者から質問を受けた。

「日本の労働生産性を上げるにはどうすればよいでしょうか?」

前述の通り、生産性については僕の専門であるゆえ、ややアカデミックな回答になるが、と断ったうえでこう述べた。

「日本の労働生産性を上げるにはどうすればよいか?日本人ががむしゃらに働くことです」と。

「ワークライフバランスなんて甘っちょろいこと言ってないで、歯ぁ食いしばって、汗水たらして必死に働くのです。」

「働き方改革?そもそも働き方ってなんだい。働き方って、がむしゃらと馬車馬以外にあんのかい?(TBSドラマ『不適切にもほどがある』のパクリ)」

講演会は先週だったので、自民党総裁選の前である。まさか高市さんから、あんな発言が出るとは思わなかった。

「全世代総力結集で、全員参加で頑張らなきゃ立て直せませんよ。だって、人数少ないですし、もう全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働いて参ります。皆様にもぜひとも日本のために、また自民党を立て直すために、沢山沢山、それぞれの専門分野でお仕事をしていただきますよう、心からお願いを申し上げます。」(高市早苗氏・自民党新総裁の選出後のあいさつより抜粋)

よくぞおっしゃった。これこそ、日本の生産性を向上させ、日本経済の成長性を高めようという決意の表れだ。このようなリーダーが日本を引っ張って行ってくれれば、希望が持てる。誠に素晴らしいお言葉であった。

物価高対策は賃金を上げるのが基本

高市さんは昨晩9日、NHKの「ニュースウォッチ9」やテレビ東京のワールドビジネスサテライト(WBS)などに生出演した。NHKは高市さんに望む街の声を伝えた。まっさきに上がったのが「物価高対策」だ。

高市さんは、これまで展開してきたご自身の政策をここでも繰り返した。
①ガソリンと軽油の減税
②地方自治体への交付金の拡充
③経営難に苦しむ病院や介護施設への支援、の3つだ。じゅうぶんである。

それに対して、円安はインフレを助長するという声がある。金融緩和と積極財政を掲げる高市さんが自民党の総裁に就任したことをきっかけに外国為替市場では円安・ドル高が進行。昨晩9日のNY市場で円相場は一時、1ドル=153円23銭と2月中旬以来、約8ヶ月ぶりの安値を付ける場面があった。

こうなると輸入物価抑制のために日銀が利上げを進めるとの見方も浮上している。しかし、実は足元のインフレというのはほとんどが食料品の上昇によるものだ。むろん、食料自給率の低い日本は、円安によって食料品価格は上昇するという要因もあるが、その経路は複雑で、円安がストレートに足元のインフレの要因とは言い切れない。そして、ここがいちばん重要な点だが、日銀の金融政策だけで、市場の複雑な思惑で決まる為替レートをコントロールすることは不可能である。

足元のインフレにもどれば、日銀自身が、この先いったん伸び悩んだ後に徐々に高まっていくと展望レポートで示している。「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するのは「見通し期間の後半」だとしているのだ。端的にいえば、インフレは日銀のターゲットにもまだ届いていないということだ。この程度のインフレで本来は「物価高対策」などと騒ぐレベルのものではない。(あくまで日本国民全体が騒ぐほどのことはない、という意味で、生活に困窮している人たちには相応の対策が必要であることは言うまでもない。)

高市さんは、足元のインフレは供給要因で押し上げられているものであり、賃金上昇と需要の拡大にけん引される「デマンドプル(需要主導)型のインフレ」に移行するのが望ましいとしている。まったくその通りである。

そもそも物価高対策というと、すぐに米の値段を下げろとか、物価を抑制する要求が強まるが、物価を下げるという発想はデフレ時代の旧弊以外のなにものでもない。物価高対策は物価を下げることではない。物価高に負けないように賃金を上げるのが基本だ。高市さんのスタンスは、そこにフォーカスしているのである。

厚生労働省が8日発表した8月の実質賃金は前年同月比で1.4%減少した。これで8ヶ月連続のマイナスである。どうしたら実質賃金がプラスになるか。

ロボットやAIによる効率アップは「労働生産性」が高まったといえるか?

冒頭の議論である。日本人が一生懸命に働いて生産性を向上させるしかない。プラスアルファはAIの助けだ。足元はフィジカルAIやエッジAIなどAIが社会実装されるフェーズに入ってきている。ソフトバンクグループ(9984)はスイス重電大手ABBからロボット事業を買収する。AIとロボットを融合させるフィジカルAIが本格始動してくる。エヌビディア[NVDA]と安川電機(6506)も同様だ。ロボットや小型端末で動くAIが製造業の現場の効率性をアップさせるだろう。

こうした生産性の向上は、人間の働き方が効率よくなったわけではなく、機械のおかげではないかと思われるだろう。それで「労働生産性」が高まったと言えるのか?賃上げを雇用主から勝ち取れるのか?という疑問があるかもしれない。

僕は生産性の専門家である。その答えはYESだ。

経済学では、長期的には、実質賃金 ≒ 労働生産性(=労働1単位あたりの付加価値)の水準で決まるとされる。企業が生産した付加価値は、「労働者への賃金」、「資本家への利潤」、「政府への税」として分配される。全体の「分け前の総量」を増やすのは、生産性を高めるしかない、という理屈だ。

ここで資本家がAIなどを導入するとする。AIや新たな機械で生産性が高まる。それは言ってみれば資本家がコスト負担して設備投資したからであって、労働者ががんばって働いて生産性が高まったわけではない。しかし、労働生産性の定義は、

労働生産性 = 生産量(付加価値) ÷ 労働投入量

なので、労働者の数や労働時間が変わらずにアウトプット(生産量)が増えれば、それは定義からして労働生産性が高まったということになる。このような生産性上昇は、資本深化(capital deepening) による効果と呼ばれる。

たとえ資本(機械)が生産性を高めたとしても、それを使いこなすのは労働者であって、生産は「労働と資本の結合」によって成り立つ。まさに「機械と人間の協働」によって生産性が高まるということだ。

ただ、最終的に賃金が上がるかどうかは労働分配率による。付加価値はいったん資本家(企業)が得るので、それをどう労働者に分配するのかは企業の裁量である。

AIの時代だからこそ、がむしゃらに働くしかない

この先、AIがますます進化して、人間の労働に対するニーズが低下した場合、労働投入量の減少を伴う労働生産性の向上という局面が、きっとくるだろう。そこで生き残ったひとは大きな恩恵(=労働者への分配)にあずかるだろう。だが、それは残酷だが全員ではない。(われわれの社会は共産主義でなく資本主義だから)。

AIに負けないようにとか言っても無理だから、機械と競争する必要はない。機械とともに働く、協働する、使いこなすのである。でも、それって今のままの、今と同じ「働き方」でできますか?

さあ、結論はなんでしょう。AIの時代だからこそ、がむしゃらに働くしかないってことです。別な言い方をすれば、各自が自分の専門の仕事に専念(フォーカス)しよう、そこで一生懸命に働こうということだ。資産運用は、黙って株を買っておけばよい。500万回くらい言っているが「株は上がるようにできている」のだから。なので、自分は自分の仕事にフォーカスしよう。それが日経平均5万円時代の働き方である。

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