上場廃止最多の94社 東証企業が初の減少、新陳代謝進む
(12月15日付 日本経済新聞)

2024年に東京証券取引所で上場廃止する企業は94社と13年以降で最多となる見通しだ。これにより東証の上場企業数は初めて減少に転じる。東証や投資家から企業価値向上の要請が強まっていることが背景にある。企業の新陳代謝が進めば、世界の投資マネーを呼び込む原動力となる。グロース市場の低迷などを背景に新規上場社数は約80社と伸び悩んでいる。この結果、新規上場などから上場廃止を差し引きした24年末の上場社数は3842社と前年比1社減る見通しだ。減少は13年以降で初めて。上場企業は13~23年に年平均40社強増え、多すぎると指摘されていた。

お金も刷りすぎればインフレになって価値が下がる。どんなものでも、多くありふれているものの価値は低い。企業も同じである。12/5付のストラテジーレポート『【日本株】2025年相場展望 注目セクターとリスクシナリオ』でも指摘した通り、とにかく、日本企業はまだ数が多すぎて過当競争に陥り利益率が低い。それを打開するような企業の再編に期待したい。企業が集約されれば企業の資本効率が高まり企業価値はもっと上昇するはずだ。このニュースは小さな一歩だが、アップサイドは非常に大きい。

前述の12/5付のレポートで、

「注目のひとつは、経営不振の日産がどうなるか。この際、どこかに買ってもらったほうがよいのではないかと思う」と書いたら、さっそく年内に動きがあった。動きは速い。われわれの想像を超える速さで動いている。

アメリカだって自動車はGM[GM]とフォード[F]の2社(テスラ[TSLA]は別格だ)。日本も最終的にはトヨタ系、ホンダ系の二つになるだろう。

ここまで述べた、資本効率の向上と自動車の再編について、トヨタ自動車(7203)が20%のROE(自己資本利益率)を目指すということの意味を改めて考えてみたい。

トヨタ、ROE目標20%に 世界車大手でトップ級 株主還元も拡充
(12月26日付 日本経済新聞)

日本経済新聞の報道は以下の通り。

トヨタ自動車は自己資本利益率(ROE)を現状の2倍の20%とする経営目標を掲げる。上場企業の平均(23年度で9%台)を大きく上回り、世界の車大手でトップ級となる。販売後の車にサービスを提供するなど事業モデルを革新し、株主還元を積極化する。利益額だけでなく、資本効率も重視する経営へとシフトする。20%の達成時期は明らかにしていないが30年前後を想定しているとみられる。トヨタの2025年3月期のROEは市場予想で11%。直近では具体的な目標を掲げていなかった。効率的な経営の目安であり投資家が重視するROEを引き上げ、市場評価を高める。

ROEはEPS(1株当たり利益)/BPS(1株当たり純資産)と表すことができる。厳密には分母は純資産ではなく自己資本(株主資本)であるが、純資産としても大差はない。そうすると以下の式が成り立つ。

PBR(株価/BPS) = PER(株価/EPS) ×ROE(EPS/BPS)

PER(株価収益率)が一定だとすれば、PBR(株価純資産倍率)はROEに比例する。

ROEが2倍になれば、PBRも2倍になる。ざっくり言って、株価も2倍になるということだ。時価総額トップのトヨタの株価が、ここから2倍になれば、日本株相場全体もけん引されるだろう。日経平均もここから2倍、8万円になるということは、あながち夢物語ではない。

ではROE20%の現実味はどうか。日本経済新聞記事では「トヨタの2025年3月期のROEは市場予想で11%」とある。トヨタの自己資本(IFRS表記で1株当たり親会社所有者帰属持分)は前期・今期の平均で(有価証券報告書の計算ルール)2,314円(1)。トヨタ自身による2025年3月期の予想EPS(IFRS表記で基本的1株当たり親会社の所有者に帰属する当期利益)は264.95円(2)である。(2)÷(1)=11.4%というわけだ。

しかし、前期2024年3月期の実績EPSは365.94円だ。前期ですでに15.8%のROEを達成しているのだ。2030年までには余裕で(おそらく前倒しで)達成できるだろう。トヨタというのは、自ら掲げた目標を必ず達成する企業である。市場もそのことをよく理解している。それが足元の好反応に表れている。

さらに言えば、トヨタに限らず自動車セクターのPERはみな低いが、これもROE目標を掲げたことによって成長期待が高まり、PERが切りあがることも考えられる。仮に、市場並みのPER15倍まで上昇すれば、ROE20%ならPBRは3.0倍だ。

トヨタの前期のBPSは2,539.75円。その3倍は7,620円。今の株価から2.4倍になる。

日経平均で言えば9万8000円、10万円は指呼の間である。

この年末に来ての、「掉尾の一振」とも思える動きは、実は日経平均10万円に向けての蠢動である。

本来ならば、もっと早くにこうした動きが出てよかった。

2014年、いまから10年前に安倍政権が掲げた成長戦略、「日本再興戦略 改定2014」は、「日本の稼ぐ力を取り戻す」と宣言した。グローバル・スタンダードの収益水準・生産性を達成していくことが求められていると謳った。

<日本企業の「稼ぐ力」、すなわち中長期的な収益性・生産性を高め、その果実を広く国民(家計)に均てんさせるには何が必要か。まずは、コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である。>
(「日本再興戦略 改定2014」)

世界水準の収益性を達成するために、ROEを世界水準にする - それを「国家戦略」として掲げたのである。僕は、この成長戦略が発表されたときに書いたレポートで、「これは政府が株価を倍にすると宣言したのと同義である。株価を上昇させるのは国家の目標となった。国策に売りなし、だ」と述べたのである。

そこから10年。確かに、株価は倍になった。しかし、それは極端な割安さが是正されただけである。まだPBRもROEも低いままだ。それらが本当にグローバル・スタンダードに向かうならば、株価のアップサイドは非常に大きい。

トヨタのROE20%宣言は、10年遅れでやってきた国家戦略の最スタートである。