“液体の黄金”ともてはやされるウィスキー ~「日本産ウィスキー・ブーム」に潜む罠とは何か~

2018/12/07

キリンホールディングス(証券番号:2503)傘下のキリンビールが先月28日、ウィスキー・ブランドの主力商品について販売終了を公表した(※1)。既に5月には業界大手であるサントリーも人気ブランドの販売終了を公表している(※2)。いずれも原酒不足が理由であるとしている。ウィスキーは熟成までに時間がかかるため、仕込時点の需給判断が現在の需給とミスマッチを起こしているかのように報道されている。

確かにハイボール・ブームなど消費者によるウィスキー需要が増加してきたのは事実である。しかし、人口増加率が低い我が国において、たとえブームが生じたからといって絶対的な需要量の多いウィスキーが販売停止になるのか。消費者増加以上に大きな変化がウィスキー・マーケットを巡り登場しているのである。それが「ウィスキー投資」の興隆である。本稿では、ではこのウィスキー投資に参画すべきなのか、酒造会社に投資すべきなのかというと「要注意である」ということを述べていきたい。

先日2日は英国でマッカラン60年物が120万ポンド(約1億7,300万円)で落札されている(※3)。また今年1月、サントリーの高級ウィスキー(50年物)が香港におけるオークションで1本3,250万円という価格で落札された(※4)。この事例が象徴する様に、ウィスキー投資の流行の背景には中国人マネーの流入がある。

そもそも自らの資産を維持するのに富裕層は株式や債券などとは全く異なる資産に投資している(これをオルタナティブ投資という)。世界的な銀行家であるロスチャイルド家が自身のワイナリー(たとえば「シャトー・ムートン・ロッチルド」(※5))を有していることが象徴する様に、その典型例がワインである。それ以外にも美術品やアンティーク・コインが非常に有名である。

これに加えて新たな投資対象となってきたのがウィスキーであった。ウィスキーは熟成というプロセスを経て風味が変化する。またそのプロセスが年単位での長い時間をかける。毎年出来に差異が存在する。そもそも今や消費大国となった中国での爆発的な増加が支える実需が存在する。この様にワインと同じ特徴を有しているのであり、投資対象となるのも言うまでもない。これからウィスキー投資をしてみたいと思うのも自然である。

しかしちょっと待って欲しい。我が国における5大ウィスキーの一角を占めるスコッチ・ウィスキーを産する英国ではスコッチ・ウィスキーへの投資方法が報道されている(※6)。上述した様にウィスキー投資は富裕層によるオルタナティブ投資の一角を占めるものである。それが一般に開放されるということは不自然であると言わざるを得ないのである。

ワインと同様にウィスキーも値段はピンキリである。しかし我が国に限って言えば、ワインに高価なイメージが一般にある一方でウィスキーは上述した大手酒造会社の企業努力もあり高価であるというイメージがそこまで強いわけではない。

中国では日本産ウィスキーの人気が特に強く、それは米欧の有名ウィスキー・ブランドがそこまで浸透していない場合があるからだという。そうした状況を睨み、蒸留所を増強すべく投資する日本企業もあると報道されている(※7)。しかし、蒸留には年数がかかるものであり、新たに投資した施設が完成し醸造を開始したとして現在の需給動向が維持できているのだろうか。それだけ長期のマーケット動向を予測できたのであれば、現在の高騰局面に対し原酒不足に至るという顛末には至らなかったのではないか。

そもそもアルコール飲料はタバコと同じく重要な嗜好品であった。それは、17世紀より始まった世界的なインフレ経済下において、より長時間労働者を働かせるのに当たり鎮静作用を与えることを目的としていたからである。

弊研究所が再三述べてきたとおり(※8)、我々が今後数百年に渡り経験していくのは太陽活動に端を発する気候変動であり、我が国を含む北半球では寒冷化が生じるのである。医療リスクを上げる過度なアルコールはより一層冷え込みを見せていくのは明らかなのである。これが世界各国で(医療用)大麻の利用が解禁されていることの真因の一つであり、そこからもアルコールがこれまでの地位を下落させていく可能性が濃厚なのだ。

これまでグローバルで多額の貨幣が刷られてインフレ誘導を行ってきた。これが逆転して寒冷化が進行しデフレ縮小化へと進むのであれば、その刷り過ぎた貨幣を償却する必要があるのである。ウィスキー投資への誘導もそうした膨大な“余りガネ”をオルタナティブ投資商品に誘導し暴落に持ち込むことで償却していくというプロセスの一環であると考えるべきなのであって、長期に渡ってこのトレンドが続くとはゆめゆめ想ってはならない。

 

*より詳しい事情についてご関心がある方はこちらからご覧ください(※9)

 

※1 http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201811/CK2018112802000292.html

※2 https://www.fnn.jp/posts/00311880HDK

※3 https://jp.sputniknews.com/life/201812025654787/

※4 https://president.jp/articles/-/26842

※5 https://www.telegraph.co.uk/investing/news/liquid-gold-invest-scotch-whisky/

※6 https://www.chateau-mouton-rothschild.com/

※7 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37833470W8A111C1SHA100/

※8 https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/haradatakeo/94245

※9 https://www.mag2.com/m/0000228369.html

 

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
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