企業の質と株価パフォーマンス

2017/11/02

・8月末にアナリスト協会と日本ファイナンス学会の共同セミナーが開かれた。テーマは、どのような投資行動が株式投資のパフォーマンスをもたらすか、というものであった。2つの研究発表があったが、その学術的な実証研究をベースに、一般的な投資家はどのような投資を行うのがよいかを検討したい。

・日興アセットマネジメントの石川康氏(オルタナティブ運用部長)は、日本企業の投資効率について分析を行った。1)設備投資を増やしている企業の株価リターンは高いか、2)R&D投資を増やしている企業の株価リターンは高いか、3)従業員数や人件費が増えている企業の株価リターンは高いか、という観点から投資効率を吟味した。過去のデータに基づく実証研究である。

・主な結果として、1)投資が増えた日本企業のROEは低下しており、とりわけ小型株の投資リターンは低下傾向にある、2)投資に慎重な企業では、投資をすると投資効率に差が出やすい、3)労働集約型の企業では投資効率が下がりやすい、というものであった。

・つまり、設備投資、R&D、従業員、人件費を増やした企業のROEは低下しており、小型株では投資リターンもマイナスであった。投資に慎重な企業はROEがよい傾向が見られ、R&Dを拡大すると、株価リターンは低下している。労働集約型の企業では人を増やすとROEが下がり、資本集約型では人を減らすとROEが上がる。

・これまでの先行研究でも、1)設備投資を増やすと株式リターンは下がる(米国)、2)独立系の企業なら設備投資の増加は株式リターンの増加に結びつく(日本)、3)R&D投資の高い企業の株式リターンは低下する(米国)、4)R&Dだけでなく、そこに投資効率(アビリティ)を入れると株式リターンは向上する(米、日、独)、5)従業員満足度が高いと、株式リターンは上がる(米国)などの研究はあった。

・ここからは筆者の見解であるが、設備投資にしても、R&D投資にしても、人材投資にしても、やれば成功するというものではない。全体を合計してみると、収益性や投資効率に必ずしも寄与していない。結果として株式のリターンに結びついていないとみられる。

・その意味するところは、設備投資をやる企業、R&Dを増やす企業、人員を増やす企業は成長しそうだから、そのようなインデックスに投資する、という行動は短絡的である。

・投資をしなければリターンを得るチャンスはない。しかし、投資をすれば、必ずリターンが得られるというものでもない。投資の中身をよく吟味して、その成功の可能性を探り、成長局面に入った時の収益性や投資効率を事前に分析する必要がある。その分析が当たらない場面もある。かといって、儲かると分かってから投資するのでは遅い。ここが投資妙味のカギである。

・経営者は勝負をかける。とりわけ、独立企業の創業者は慧眼を有している場合が多い。つまり、先を見通す力を有している。投資を開始しても、上手くいかないと分かったら、さっさと撤退する決断もできる。

・R&Dや設備投資には、それぞれの発展ステージにおいて、検討すべきテーマと内容がある。そこを十分吟味しながら、次のステップに進まないと、期待先行に終わってしまうことも多い。人材を増やす企業は成長の可能性を有しているとみられるが、当然、人件費増が先行して、収益性が低下する可能性がある。よって、生産性が本当に上げられるかをよく吟味する必要がある。

・日興アセットマネジメントでは、アナリストによるCSV評価法を取り入れている。①ESG、②市場競争力、③財務、という3つの軸で、独自のCSVスコアシステムを作成している。ESGでは、人的多様性、経営の実行力、環境・社会、事業継続の脅威を評価項目にしている。市場競争力では、参入障壁、ブランド力、開発投資、コスト優位性、市場成長力を評点する。財務では、株主還元と財務健全性をみている。これらを取り入れた日本株CSV戦略でアクティブ運用を展開している。

・もう1つの研究は、首都大学東京の内山朋規教授によるものであった。伝統的理論では、株式に対する期待リターンはリスクプレミアム(リスクの負担)に依存する。株式の収益性が高くても、それは株価にすでに織り込まれているので、期待リターンには反映されない、というものである。

・ところが、クオリティが高い銘柄というのが存在するというのが、内山氏の分析である。つまり、収益性が高く、リスクが低い銘柄が存在する。クオリティの高い銘柄は、すでに十分ディスカウントされている(株価に織り込まれている)のではなく、高い期待リターンが得られる。多くのアクティブファンドは、このクオリティファクターを利用していないので、これを利用した投資が有効ではないかと主張する。

・実証分析によると、1)クオリティのプレミアムは高く、小型株よりも大型株の方が顕著である。2)バリューファクターとは明らかに異なる。3)クオリティファクターへの投資はリスクを分散させ、パフォーマンスを改善させる。

・ここでいうクオリティは、①ROAの高さ、②ROEの安定性、③ベータの低さ、で説明される。つまり、収益性が高く、資本効率が安定して、リスクが低い企業の方が、相対的にクオリティが高いと判断する。シンプルであるが、こうした銘柄群によって、高い株価パフォーマンスが得られるのであれば、このアクティブ投資は有効であろう。

・企業の分析に当たって、1)ROA、ひいてはROICをいかに向上できるか、2)一定水準以上のROEをいかにキープできるか、3)マーケットの変動に左右されない事業特性や業種特性をどれだけ持っているか、を重視する。

・ROAやROEが低くては投資に向かない。ROAやROEが改善に向かう時、株価は上昇する。この点は既によく知られている。一方で、低β株は、マーケットが上がる時に上がらず、マーケットが下がる時に下がらず、という傾向を有する。

・ここでいうクオリティ企業は、ROEが高く安定しているというのが最も重要で、次に事業の独自性が高く、マーケットに左右されないビジネスモデルを持っているという点が注目される。言われてみれば当たり前のようだが、こうしたクオリティ企業がアクティブ運用に十分利用されていないとすれば、今後の活用余地は大きい。

・クオリティ企業はどこか。アナリストとしては、過去のデータだけに捉われることなく、将来志向で比較と予測に努め、企業の新たな質を発見したい。

株式会社日本ベル投資研究所
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