老舗(しにせ)企業のサステナビリティ

2015/01/05

・昨年10月にある企業の100周年パーティーに参加した。1部上場企業で3代目の創業家社長である。4代目も取締役で頑張っているから、いずれバトンタッチもなされよう。次の100年に向けて経営を継続すると宣言する。

・「伊藤レポート」の議論に参加した時、過去20年の株価パフォーマンスをみると、ファミリー企業の良さが目立っているという論点が注目された。確かに新興企業は創業者が初代であり、創業者の馬力で会社を成長させていく。日本電産(世界最大の総合モーターメーカー)の永守社長は初代であり。独特の慧眼と実行力で、M&Aも含めて急成長を持続させている。

・初代に限らず、ファミリーが健在で、リーダーシップを発揮している企業も多い。創業者の精神が、創業者が健在の時に薫陶を受けたマネジメントが継承している間は続く可能性が高い。しかし、急激な外部環境の変化や、自社の根幹を支える仕組みが新たなイノベーションに晒されると、従来から維持してきた強みが大きく崩されてしまうことも多い。

・直系の2代目社長が創業者より優秀であるという保証はない。3代目がファミリーである場合にはさらに難しくなるかもしれない。しかし、2代目、3代目で立派に会社をリードしている社長も多い。ユニ・チャームの高原社長は2代目であるが、初代の作り上げた基盤を取捨選択しつつ、全く新しい会社に作り変えて成長を続けている。

・かつて本田宗一郎氏は、ファミリーをホンダには入れず、後継者とはしなかった。創業者はイノベーターであるから、常人でないところがあり、リーダーシップを発揮すると同時にワンマンでもある。ワンマンがあらぬ方向にいかないように、それをいさめる番頭役が必要である、ホンダの場合、藤沢武夫氏が副社長として本田社長を支えたという話は有名である。

・この創業者の精神をどのように受け継いでいくのか。創業者と同じ釜の飯を食った人で、マネジメント人材が育っていれば、しばらくは続くことになる。しかし、その次の世代になっても企業の強さを維持していくのは容易ではない。三菱商事や三菱重工に、三菱グループの創始者である岩崎彌(や)太郎のファミリーがマネジメントを継承するという文化はない。それでも三菱商事は企業として輝いている。三菱4代目社長の岩崎小彌(こや)太(た)の訓諭を基に、①所期奉公(豊かな社会の実現)、②処事光明(公明正大の堅持)、③立業貿易(世界視野での事業展開)を行動指針としている。そのもとで、立派な経営者を後継者として輩出する仕組みがこれまで機能してきたということであろう。

・このように創業者の精神を大事にしつつ、それを経営のビジョンに活かし、中長期経営を行っている会社も多い。しかし、それが現実の経営の中で本当に活かされるにはもっと別の仕組みが必要である。

・トヨタ自動車はファミリー企業とみられている。現社長の豊田章男氏は、豊田佐吉(曾祖父)、豊田喜一郎(祖父)、豊田章一郎(父)からみると4代目である。その間、一族とは関係ない有能な経営者が社長を務めて、会社を率いてきた時期も長い。一族からトップが出るということは、求心力が働く。会社がまとまって、一丸となって力を発揮するには都合がよい。しかし、トップに十分な力量がなく、的確な経営の意思決定ができなければ、その企業の将来に禍根を残す。

・中堅の上場企業で、創業者が息子に社長を譲った後、経営が厳しくなって、会長から再び社長に戻ってくるという例は数多くある。創業者が健在であれば手の打ちようがあるかもしれないが、その時では手遅れであるという場合もある。つまり、ファミリー出身であっても、直系であっても、周りも認める経営能力がなければ、トップは務まらない。トヨタの場合は、それをよく見極めた上で、トップの座に4代目を据えた。豊田社長のマネジメント力は現在見事に活きている。

・日本に長寿企業は世界一多い。日本経済大学の後藤俊夫教授の調査によると、日本には100年以上続く会社が2.5万社以上ある。200年以上が3900社、300年以上が1900社、1000年以上が21社ほどある。西暦578年創業の金剛組はギネスブックに載っており、718年創業の法師(旅館、46代目)もギネスブックに載っている。この長寿企業の数は、第2位である米国の1.1万社に比べても圧倒的である。

・日本に企業といえる会社は260万社ほどあるが、その97%はファミリービジネスである。そのファミリービジネスが長く続くには6つの定石があるというのが、後藤教授の見立てである。1つ目は長期的視点である。経営者の交代という視点でみると、短期が10年、中期が30年、長期が100年となる。3代先まで考える必要がある。2つ目が、持続的成長の確保である。身の丈に合った経営を行うこと、他人資本には頼らないこと、上場をしないことも重要である。

・3つ目は、優位性の構築と強化である。ドミナンスやコアコンビタンスに拘り、事業の広がりも周辺分野から攻める。4つ目は、利害関係者(ステークホールダー)との長期的関係を築くことである。信用こそが最大の財産であるという考えを貫く。5つ目が、経営の安全性を守ることである。リスクマネジメントや独立性の確保を徹底する。

・そして6つ目が、継続への強い意志である。稼業(生活のための仕事)は尊いものという思いを強く持って、継続性を追求する、儒教の朱子学は、商業は尊いものとみなさなかったが、日本の商業倫理思想には、鈴木正三(世俗的生活は仏道修行と同じ価値)、石田梅岩(利潤は正当なものとして奨励)、二宮金次郎(報徳思想)、渋沢栄一(道徳経済合一)、松下幸之助(社会の公器)に見られるように、一貫した理念が生きていると後藤教授は強調する。

・昨今のコーポレートガバナンスやスチュワードシップにも、こうした考えと通じるものがある。実際には、理念やビジョンをいかに組織能力として定着させ、維持していくかが問われる。新興企業はイノベーションの連鎖で長くサバイバルすること、老舗企業はサステナビリティを維持するための仕組みに磨きをかけることに力を入れてほしい。

・その中で上場企業においても、ファミリービジネスとしての良さを追求してかまわない。但し、少数株主にも配慮して経営を力強く推進してほしい。そのためのガバナンスが求められる。ファミリー色がない企業では、社内の論理や人材に拘ることなく、経営力を磨いてほしい。価値創造の目標をストレッチして、それに挑戦するためのガバナンスが必要である。投資家はそれを実践する企業に長期投資をしたいと思うはずである。

 

 

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