トランプ関税を乗り越えるには

2025/08/11

・4月にトランプ関税が課せられた。何でそんなことを、自由貿易に反する、と言ってもしかたがない。米国ファースト、トランプ支持層ファーストとなれば、それを支えるブレーンもいる。では、どうすればよいのか。

・少し歴史を振り返ってみよう。1980年代の日米自動車摩擦はどうであった。安くて燃費のよい高性能な小型車を米国で売って何が悪いのか。否、それが悪いといわれた。米国車が日本で売れないのは、非関税障壁があるからだと。

・米国で売れているのに、日本で売れないわけがない、と散々言われた。いろいろ手は打たれたが、結局売れていない。一方で、ドイツのベンツは、ステータスとしてよく売れている。

・日本の大手は、米国に自動車組み立て工場を作った。カナダやメキシコも活用した。現地調達比率を上げるために、部品メーカーも北米に出ていった。現地生産の日本車は売れるようになった。

・米国のデトロイトにかつての栄光は戻っていない。それが不満らしい。では、デトロイトに工場を作ったらどうか。それでも不満は残ろう。ここに答えはない。

・半導体はどうか。90年代の日米半導体摩擦で、日本は追い込まれた。イノベーションについていけなくなり、投資にも遅れをとった。新しいロジック半導体の台頭と水平分業の中で、見事に衰退した。インターネット時代にGAFAMが米国の巨大産業にのし上がり、今やAI向け半導体が急成長をみせている。

・米中貿易摩擦の中で、安全保障のコアであり、産業のコメである半導体を他国にまかせるわけにはいかない。地産地消で、自国で作る必要がある。米国に半導体工場が立地されていくが人手が足らない。世界から優秀な人を集めてくる必要がある。

・日本からも、半導体製造装置や半導体関連部品、関連素材を輸出している。ここに関税がかかってくる。高い部材を使って半導体を作ることになる。そんなことは気していないかもしれない。

・あるいは、いざとなって、それが足枷となるようなら、何らかの理由をつけて、個別のディールとして自らに有効になるように関税を変えるかもしれない。要は損得が優先するので、何でもありといえる。

・日本は報復関税で対抗するのか。これは得策でない。米国からの輸入に高関税をかけても、困るのは日本ユーザーである。米国サイドからみれば、対抗措置をとった国には腹を立てて、次の対抗策を打ち出してくるだろう。

・農産物について、関税は見直した方がよい。日本の農業の歴史的保護政策が、日本の農業の競争力の強化に役立ってないし、日本の食糧自給という安全保障にも十分でない。

・自由貿易は強者の論理ともいえる。すべての国が全くフリーに取引して、各々の国の貿易収支がバランスすることはありえない。国の強さ、弱さが、個別の貿易品目の収支として必ず偏在が起きるからである。

・弱い国は一定の保護をかけて、自国を守ろうとする。ところが、大国が落ち込み始めて、貿易収支の赤字が目立って、国際収支全体でも許容できなくなると、弱い国と同じような行動を取り始める。

・米国は弱っている。世界最大の債権大国の時は、公明正大なルールを作り、世界の指導者かつ警察官として、世界を支配してきた。ところが、次第に都合が悪くなってきた。

・ゆとりがなくなると、これまでのように公明正大の建前を守ってはおられず、自己都合のエゴがどんどん出てくる。落ち込んでくると、世の中は不安定になる。今はそういう局面に入っているとみておきたい。

・政治、経済、社会の不均衡は、地震のごとく世界の各地で発生して、多大な犠牲をもたらす。各々の勢力が自ら良しとすることを通そうとするので、当然局地戦が起きる。場合によっては、大戦になるかもしれない。

・力ずくの戦いで消耗すれば、そこに次の均衡が生まれる。その均衡は決してフェアではないので、不満を残したまま次の事態へと移行していこう。

・地政学的不均衡を見据えながら、一定の枠組みの中で、望ましい政治経済行動をとっていくことが最善であろう。日本はジャパンファーストとはいかない。米国が衰えつつあるといっても、日米同盟を崩すわけにはいかない。

・しかし、これまで以上に自立する必要がある。ところが、日本は人口が減って、経済力が落ちて、相対的に貧しくなっている。そうすると、精神的なゆとりがなくなってくる。国内がバラバラになってくる時が危うい。

・そうならないようにするには、どうすべきか。まずは自らの生きるスタンスを定めておきたい。人それぞれであるが、自分にとってのウェルビーイング(幸せ)を大事にして、次に自らの属する組織やコミュニティのあり方(存在意義)を考えたい。

・その上で、組織のパーパス、ビジョン、ミッションと将来の行く末を見極めたい。もちろん、そんな先のことはわからないかもしれない。しかし、トランプ関税は、やはり差し迫った危機である。これまでの前提が崩れていくので、新しい仕組みを作る必要がある。

・それはリスクであり、チャンスでもある。市場はいつも次の均衡を求めて断層的に変動する。復元する力が求められるが、かつてに戻るのではない。新しい均衡を求めることは、のし上がるチャンスでもある。経済は不況に陥るかもしれない。株式市場は早々に大幅な調整を経験した。当面、織り込み済みとなったが、予断は許さない。

・オイルショック、ドルショック、リーマンショック、コロナショック、トランプショックと、ショックは続くが、今回のショックも十分乗り越えられよう。常にポジティブに次のチャンスを見い出していきたい。

・トランプ関税は、1930年代のスムート・ホーリー法のようなブロック経済の加速と世界経済の閉そく感に伴う新たな紛争、そして戦争へと向かうのであろうか。

・関税の報復合戦、株価の暴落、インフレの加速、消費の鈍化、リセッションによる失業の増加、財政出動により財政赤字の拡大、通貨の変動拡大、国際的な資金の流動性低下、弱小国の債務危機などが連鎖を引き起こしかねない。

・どのように歯止めをかけるのか。まずは実態悪が想定以上に表面化するまでは止まらない。次に、実態悪を受け入れて、それに耐えながら、我慢の経済が続こう。

・トランプは時代の象徴なので、次の選挙で大統領が交替したからといって、米国の行動がすぐによくなるわけではない。米国の貿易赤字は、中国、欧州、加、メキシコ、アセアン、日本、台湾、韓国、インドなどによる。関税を引き上げたからといって、すぐに事態が改善するわけではない。むしろ、悪化しよう。

・相互関税には非関税障壁分も含む。制裁関税は、不公平な貿易不均衡に対して、効果を引き出す目的で恣意的に導入される。報復関税は、相手国に対しての対応措置として用いられる。

・トランプ関税政策は、トランプにとってお土産となるディールを用意するならば、個別取引に応じるという中世の王国のようなやり方である。これまでのルールなど関係ない。中国が米国の関税引き上げをWTOなどの国際機関に訴えると言ったが、米国は国際ルールなどほとんど考慮しない。力任せの傍若無人ぶりである。

・日本企業はどうするのか。我慢しながら、被害を最小に抑え、次の手を考えるしかない。その上で、米国に投資するか、米国から一旦手を引くか。当面は米国と中国の双方から距離をおいたビジネスで、サステナビリティを図っていきたい。

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