デフレからインフレへ~いかに適応するか

2024/10/16

・今年、日経平均は33年ぶりに高値を更新した。デフレ時代を乗り越えて、新値をつけるとはサプライズであった。30年前に、これからのマーケットはどうなるか、と何度も考えたが、1)これほど長期の低迷が続くとは思わなかった、2)いずれ蘇るとは信じていたが、日経平均が新値をつけたのは新鮮であった。

・では、ここからどうなるか。日本株の将来について、通常、強気になることはなかなか難しい。日本経済の構造が、そうたやすくポジティブに変化するとは思えない。それでも、変革できる企業はこれからも出てこよう。よって、個別企業に目を凝らしながら、マーケット環境の良し悪しをみていきたいと思う。

・その中で、日本の金融政策は転換しつつある。日銀の金融政策はこれまでの30年を振り返って、どのように評価するか。うまくいかなかったようにみえるが、本当なのか。雨宮氏(前日銀副総裁)の講演を聞く機会があった。その骨子を参考にしながら、頭の整理をしておきたい。

・日経平均がピークをつけた1989年は、バブルのピークであった。このバブル崩壊とともに、日本経済はデフレに入った。継続的に物価がマイナスとなるデフレである。1998年度~2012年度の消費者物価指数CPI(除く生鮮食品)は、年平均-0.3%であった。

・これに対して、日銀は、1)1992年2月よりゼロ金利、2)2001年3月より量的緩和、3)2013年4月より量的・質的金融緩和(QQE)、という政策を実行してきた。いわゆる非伝統的な金融政策を世界で初めて実施した。しかし、日本のデフレは20年以上も続き、小幅ながら長く、しつこかった、と雨宮氏は語る。

・短期金利をゼロからマイナスにもっていく。イールドカーブコントロールを短期のものだけでなく、長期のものもコントロールする。国債を買うだけでなく、社債や株のETFを買うところまでいった。

・黒田総裁の量的・質的金融緩和政策は、異次元緩和といわれた。これは、1)物価を2年で2%までもっていく、2)そのために量的緩和を大幅に実施することを厭わない、という意味で、異次元であった。デフレを終わらせ、CPIを2%へ、そのためには量的緩和を2倍にしても実現するとコミットした。

・結果はどうだったか。コミットメントは実現できなかった。しかし、この金融政策が効かなかったのかといえば、一定の効果を上げた。

・デフレ論争には、2つの極があった。1つはリフレ派で、デフレが経済低迷の原因であるから、貨幣の量のバラマキでデフレを脱却せよという論である。

・もう一方は、雨宮氏の名付ける構造派で、デフレは日本経済低迷の結果であるから、デフレ脱却には、人口減、需要減、生産性低迷にきちんと手を打つ必要があるという論であった。

・アベノミクスが登場する中で、日銀はリフレ派の論を採用した。アベノミクスが構造改革をやるのであれば、リフレ的金融政策は意味があると考えた。しかし、いつの時代も構造改革は容易でない。そこで、金融政策に過度に依存する形となった。

・デフレスパイラルに入ったので、QQEはショック療法として効くと日銀は考えた。当初の1年半はいい方向に向かったが、2014年から再びデフレに舞い戻ってしまった。

・消費税を上げたせいか。逆オイルショックのせいか。これに対して、雨宮氏は、賃金が上がらない中で、人々のマインドが変わらなかったことが大きいという。

・QQEは、短期決戦ではなく、持久戦の戦法になった。マイナス金利、YCC(イールドカーブコントロール)によって、長期金利も、10年ものでゼロにすることにした。株のETFもどんどん買った。

・それでどうなったか。2013年からコロナ前の2019年までをみると、CPIはマイナスからプラスとなり、平均で+0.5%となった。QQEは効いたが、CPI+2%には及ばなかった。

・コロナ後はどうか。ウクライナ紛争で世界のエネルギー需給が変わった。米中の対立が経済にも影響を与えている。大幅な円安が国内物価にも響いている。これらの要因が、最近CPIが2%を超えている主因かといえば、それらはデフレ脱却の触媒であって、やはりQQEが効いてきた、と雨宮氏はみている。

・そこで、今年3月にQQEは終了し、非伝統的金融政策はすべてやめることになった。マイナス金利をやめ、YCCを撤廃した。6月からは国債の買い入れを減額し始めた。従来のオーソドックスな短期金利の操作に戻り、7月にはこの短期金利を上げた。

・デフレからインフレの局面に入ったといっても、1)需要が増える中でのデマンドプル型なのか、2)供給制約によるコストプッシュ型なのか、によって政策対応は異なる。雨宮氏は米国のインフレはデマンドプル型なのでで、ここに金融政策は効く。一方、欧州はコストプッシュ型なので、経済がよくなくても金利を上げて物価を抑えようとしている。

・これに対して、日本は両者の中間型なので、よくみながらバランスを図る必要があるとみている。インバウンドや設備投資の需要が高まる一方で、円安やエネルギー価格の上昇でコストも上がっている。賃金が追い付かないと、消費が減少して、人々の行動は委縮しかねない。

・円安は放置できないが、米国の金融政策に対して、日本の金融政策では太刀打ちできない。それでも、輸入物価の上昇が相対的に落ち着き、賃金上昇がトレンドにあるなら、金利の引き上げは有効な手段となりうる。日銀はそのように動いている。

・日本の国際競争力は落ちている。企業には強くなってほしい。その道はある。インバウンドを活かす。外国人労働者を採用する。円安を活かして、海外マーケットを開拓する、価格戦略を見直して、高付加価値化を図る。AI、DXを活かして、生産性の向上を進める。企業業績を持続的に上げることは十分に可能である。

・日銀が量的緩和の中で、大量に買い入れた国債やETFはどうするのか。500兆円の国債は、毎月償還(6兆円)があるので、自動的に減らすことができる。70兆円のETFは今や十分な含み益がある。いずれマーケットに戻すことになろうが、必ずやマーケットにインパクトを与えない方策がとられよう。よって、市場にネガティブに働くことはないとみてよい。

・ポストバブルの30年を経て、デフレ世代はインフレ時代への適応を求められる。生活においても、ビジネスにおいても、新しいスタイルが見えてこよう。高齢者は、かつてのインフレ時代を知っているといっても、自らの老後にインフレの中で対応していく必要がある。

・ここでも新しい工夫が必要であろう。高齢者は健康のために動き、生活のために働くことが避けられない。資産活用立国に向けて活躍する企業に注目したい。

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