ブリヂストンのグローバル経営
・ブリヂストンのグローバル経営はユニークである。創業者の石橋正二郎は「事業は社会とともに」を掲げた。現在、売上高3兆円、社員14.3万人、当期純利益1000億円の企業である。1988年に米国のファイアストンを買収して、その後も事業を拡大、今では世界№1のタイヤメーカーにのし上がった。タイヤのシェアはブリヂストン15.2%、ミシュラン(仏)14.6%、グットイヤー(米)10.9%。海外売上比率77%、海外生産比率70%のグローバル企業である。
・このブリヂストンの荒川詔四会長の講演を、世界経営者会議(2012年10月)で聴いた。荒川会長は、今後とも規模を追求するのは最低条件だが、規模だけでは生き残れない、という。当社は、2011年に創立80周年を迎えたが、それを機に企業理念をまとめた。「最高の品質で社会に貢献」を使命に、4つの心構えをあげている。①誠実協調(Seijitsu-Kyocho)、②進取独創(Shinshu-Dokuso)、③現物現場(Genbutsu-Genba)、④熟慮断行(Jukuryo-danko)である。
・次世代を担う外国人社員も入って作ったが、議論を重ねると、日本マインドが大事であるということになった。そこで、4つの心構えは、日本語をそのまま英語にした。ブリヂストン語として、世界に定着させようとしている。また、CSRは企業理念を具体化したものであり、「経営そのものである」と位置付けている。
・当社は、タイヤ・ゴムの分野で世界№1となった。次は、経営の質としてトップになるように、軸をぶらさずに、スピードを上げていこうとしている。グローバル経営のコアは中期計画で、5カ年計画を毎年ローリングしている。その狙いは、①将来のあるべき姿を明確にする、②現在の実力を認識する、③実行可能な施策を入れる、④グループ内の戦略について整合性をとる、⑤リソースを配分してオーナーシップ(責任)をもつ、ことにある。外部環境の変化に対応できるように、とりわけ危機的な状況にも即応できるように、中期計画は毎年修正し、それを基準として行動している。
・経営のトップとして、ベースとすべき考えは3つほどある、と荒川会長はいう。1つは、基本原則は世界共通である。2つは、常に覚悟と知恵を示し逃げない。3つは、土俵を変えることである。これは、他社との圧倒的差別化を図るために先手を打つことである。
・その上で、コミュニケーションの工夫をしている。その真骨頂は“National English”の活用である。ナショナル・イングリッシュという英語はない。造語であるが、その意味は、「自分の国で習った英語を共通語にする」ということである。確かに、英語が母国語でない人は多い。その国の人たちがその国で学んだ英語で話す。それでコミュニケーションを図る。もしイギリス英語やアメリカ英語を公用語にしたら、その英語が出来ない人は、コミュニケーションができない。最初から落ちこぼれてしまう。まして、イギリス英語を社内の公用語にして、イギリス的な考え方がどんどん入って主流になっては、ダイバーシティ化(多様化)の否定になると、荒川会長は強調する。
・確かに、これなら英語の苦手な日本人も、ジャパニーズ英語でどんどん話していけば、気後れすることなく、コミュニケーションがとれるようになっていこう。まことにユニークである。
・それでは、グローバルマネジメントができる人材の条件は何か。荒川会長は、①基本原則を持っている人、②先見性、洞察力のある人、③イノベーションを絶えず起こせる人、④新しい社会的価値を発想できる人、であるという。
・どのように育てるかという点では、「ダイバーシティの中で育つ」と強調する。グローバルマネジメントを担えそうなリストを作り、その人々を組織の中で育てていく。ナショナル・イングリッシュから始まって、グローバルマネジメント人材を育成して、世界№1を確固たるものにしようというブリヂストンのグローバル経営に注目したい。