創業者にとってのガバナンス
・ジャパネット高田は未上場企業である。テレビショッピングで業容を大きく拡大してきた。創業者である高田明氏の講演を視聴した。すでに会社を息子に譲って7年半、自らの体験をベースに経営者のあるべき姿を語った。
・3つの“ション”について、思いを語った。①ミッション(理念)、②パッション(情熱)、③アクション(行動)である。ミッションがなければ長続きしない。パッションをもって、負のサイクルに入らないようにする。アクションをとらなければ、何事も乗り越えられない。
・66歳の時に、会社の代表を息子(36歳)に譲った。会長にもならず、全て任せた。現在社員は3000人、売上高は7年前の1500億円が現在は2500億円へ拡大している。
・モットーは、夢を持ち続けて、日々精進する。過去は変えられない、未来は不安である。今を一生懸命に生きる。課題が次々と降りかかってくる。ボトルネックにどう手を打つか。次に向けて進むことが楽しいと思ったという。
・邁進するには、人生の目的と会社の目的を一致させること、ミッションの共通化が大事で、そうしないとパッションは続かず、諦めたら終わりである。さらに、自分の力で変えられないことには悩むな、と語る。自分ができること、できそうなことに力を入れて頑張れば、何らかの変化が起きてくる。
・経営者を見ていると、十分頑張っているという声をよく聴く。高田氏は、それは“つもり”ではないかと問う。頑張っている“つもり”では変化は起きない、という。
・まず何か1つを極めよ。多様性は後からついてくる。一生懸命やっていると、人は集まってくる。同じ価値を共有できる仲間が集まってくる。
・大阪経済大でESSを4年間頑張った。25歳でカメラ店を始め、30歳で支店を出した。ソニーのビデオの特約店になって、九州で一番になった。41歳でラジオの通販に出た。5年で売上を40億円にした。
・次は、TVの通販に進出した。年商が200億円になった時50歳になっていた。さらに、カタログ、インターネットへと展開した。5%の可能性を実現すべく、自らのTVスタジオを作った。谷は何度もあったが、社員と乗り切ったと語る。
・現在は、長崎の再生に向けて発信している、かつて人口45万人の街が40万人を切ってきた。三菱重工の跡地を活性化する「長崎スタジアムシティプロジェクト」に力を入れている。
・どうしたら伝わるのか。「伝えるつもり」ではダメ、「伝えた」でもダメ、「伝わったか」を確認して、‘伝わった世界を作ること’が極意であると強調する。なるほど、これは何事にも通じよう。
・創業者の思いは決定的である。では、スタートアップ企業にとって、コーポレートガバナンスとはどのようなものなのか。
・筆者は、上場したばかりの中小型企業は、ガバナンスは経営力の1つの要素であって、あえて独立して評価する必要はないと思っている。①経営者の経営力、②事業の成長力、③業績のリスクマネジメントの3つの要素が重要である。
・シニフィアンの小林賢治氏は、コーポレートガバナンス(CG)の本来の目的がベンチャー企業経営者に伝わっていないという。スタートアップ企業とCGは相性が悪そうにみえる。CGの目的が腹落ちしないまま、形ばかり求められる。気が進まないが、しぶしぶ対応することも多いという。
・ところが、CGは持続的成長の仕組みであり、成長のためのリスクテイクができるようにする。1)リスクを評価し、2)リスクをとれる動きを見せ、3)リスクに耐えられるようにして、4)ステークホルダーからの理解を得ていく。こうなれば、しめたものである。
・企業としてうまく立ち上がり、急成長している時、経営者は傲慢になり、勝ちパターンにとらわれて、戦略を変えられない。停滞期に入って初めて、次への新しい投資を怠っていたことに気が付くが、すでに時遅しという局面も多い。
・一生懸命頑張っているが、自己都合ばかりで、頑張りが足らないと焦ってくる。市場や競争環境が大きく変化しているのに、自己都合を優先する。変化対応ができないまま過去の勝ちパターンへこだわることが、グロース企業の病気であると小林氏は指摘する。
・そういう局面で、社外取締役の役割は何のか。新興企業において、社外取締役は単なる応援団ではない。監督と助言が役割であるが、立ち位置が異なる。創業者が持っている独裁的空気を打破して、もう一度経営を見つめ直すことである。
・創業者の感情を忖度しないことも重要である。そうすると、客観的であったとしても、ノリが悪いと言われかねない。スタートアップ企業はこの空気に気つけるべし、と小林氏は警鐘を鳴らす。一目置かれる社外取締役になれるか。その資質を磨いていないと務まらない。
・2代目がリードするジャパネット高田のガバナンスはどのような仕組みなのだろうか。将来上場してくるだろうか。今後の展開に注目したい。