ESGへの対応~強制からいかに脱却するか
・ESGの重要性はわかるが、企業の経営者によっては、自らの本業にあまり関係ないところで、原則やルールへの対応が求められていると感じることが多いと思う。当然ながら、ルールへの対応は手間であり、それが直接会社の成長に結び付くわけではないと受け止めていよう。
・TCFDへの対応も、プライム市場への上場企業は一定の水準をクリアする必要がある。企業によっては、自社の人材だけでは対応できないので、外部のコンサルを入れているところも多い。
・カーボンニュートラル(CN)を達成するためのビジネスモデルを、どのように構築するか。途中のプロセスでは、何がカギを握るか。まずは、どんな備えからスタートすればよいのか。自社のビジネスモデルへの具体化次第で、外部から強制される度合いは大きく変化しよう。
・SDGsを基本に、社会のサステナビリティを十分考慮し、それに貢献しながらもっと稼げといわれても、その両立がなかなかピンとこない。しかし、企業のサステナビリティを追求する経営を実行せよ、という要請が高まっている。
・企業価値創造に、慈善活動を持ち込めというわけではない。まずは社会のサステナビリティと自社のサステナビリティが共有できる領域を絞り込み、その中で、自社の企業価値向上に明確に資するところを追求する。ここでしっかり稼がなくては、次に続かない。
・その上で、共有できる領域を広げていく。今のところ共有はできないが、少しでも貢献したいと思うところがあれば、社会的価値優先で活動することが一部あってもよい。ブランドの向上、人材の活用、コミュニティのサポート、バリューチェーンの広がりなど、社会貢献がいずれ自社の企業価値にも寄与してくると捉えられよう。
・北川教授(都立大)は10月セミナーで、現在のESGカオスを、溢れんばかりの洪水に例えて、これとどう向き合っていくかという点について、重要な示唆を与えてくれた。
・1)ESGで欧州から攻められている、2)ESGは受けとめるだけで精一杯である、3)遅れを何とか取り戻したい、という姿勢では、先行企業に対抗できないとみている。
・では、どうするのか。ESGとサステナビリティで世界をリードすべし、と提言する。そのためには、当然イノベーションが求められる。本業のイノベーションで企業価値を高め、それを通して社会に貢献するという道筋である。
・同時に、価値報告(バリューレポーティング)を、もっとダイナミックに、ユーザーに役立つように開示していく。①比較可能性、②検証可能性、③目的適合性を高めていく。ステークホールダーは多様であるが、彼らに分かってもらう必要がある。
・そうでないと、資本市場での評価が十分得られない。企業への期待は高まっており、その分果たすべき義務も重くなる。大事なことは、情報の非対称性が評価されなくなっている、と北川教授は指摘する。
・意味するところは、一方的な情報優位ではなく、十分対話できる情報を共有し、ひいては価値創造を共に創る協創が問われている。これを大変な手間と思わないことである。
・海外投資家に問うてみればよい。若い社員に聞いてみればよい。経営者の意識と投資家の意識に、どのようなギャップがあるかを知って、行動する必要がある。
・丸井グループの加藤取締役(常務執行役員)は、10月に催されたIR学会で、ビジネスの遂行とサステナビリティの追求は、この3年で互いにトレードオフではなく、トレードオンになってきたと話した。両立できないではなく、両立するようになってきたという意味である。
・JFEスチールの手塚専門主監(技術企画部地球環境グループリーダー)は、TCFDへの対応では、いかにトランジションしていくかが問われるが、それにはR&Dによるイノベーションが不可欠であると語った。
・難しくてできそうにないと悲観するのではなく、2030年、2050年に向けて、新しい製鉄事業を作っていくという気概である。水素の利用に向けてイノベーションを起こし、カーボンニュートラルの達成に向けて、社会的価値と両立するサステナブルな企業価値を目指すという。
・こうした投資に、投資家は資金を提供するか。価値創造の本質が問われる。開示を通して共感、協創が醸成されるならば、長期投資に耐えられよう。利益や付加価値のコンセプトが変化してくるかもしれない。ここまで踏み込んだインパクト投資が必要になってくる点に注目したい。