DXと生産性~いつまで働くか

2021/12/13

・9月に開催されたソフトバンクワールド(展示オンラインセミナー)で、SBGの孫社長がおもしろい話をした。日本復活のカギは「スマボ」にあるという。

・「スマボ」とはスマートロボットのことで、孫社長の造語である。日本の競争力は落ちている。30年前には世界でもトップクラスであったものが、今や30位くらいに低下してきた。人口が減り始めている。技術力もトータルでは低下している。

・デフレが続くなかで、生産性は上がらず、ひいては賃金が上がらず、所得も低下してきた。豊かな先進国から苦しい中進国へ没落していくのだろうか。格差は拡がっている。もっと成長して、もっと分配して、という国の政策はどう実現するのだろうか。

・ガラケーのケータイをスマホに変えたのは、アップルのスティーブ・ジョブズである。かつて、工場におけるロボットの活用で日本は世界の大国になったが、この時のロボットは、人がすべてのプログラムを書いて、決まった動作を行うようにした。これを孫さんは「ガラボ」という。

・もうガラボでは戦えない。スマートロボットのスマボ時代が始まっている。ここで、日本は先頭を走っているのか。デジタル化でみると、AI、ロボット、IoTのいずれにおいても米国に遅れをとっている。

・SBGのビジョンファンドは世界のAI企業に投資している。世界のAIをリードする企業の1割に資本出資しており、スマボ関連もすでに18社となった。

・AIを使うと、いちいちプログラミングしなくても、AIが自らその場で判断して、次の行動に移っていく。AI活用のスマボは人と違って、24時間働ける。土日も働ける。労働時間が3倍になり、AIで生産性が3.5倍になるとすると、生産性は10倍になる。

・つまり、スマボ1億台で10億人相当の仕事ができるようになる。日本の労働人口が減っても、スマボで豊かになることは可能であるというのが、孫さんの見立てである。これはありがたい。夢がある。

・衝突防止のアジャイルロボット、自動倉庫でピッキングが圧倒的に早くなるAIロボット、手術が圧倒的に楽になる小型サブスク型の腹腔鏡スマボ、アルバイトより素早い配膳ロボ、清掃ロボ、ホワイトカラーのルーチンワークを減らすデジタルロボなど、さまざまな可能性が広がっている。

・こうなると、自分の仕事がなくなってしまうと心配になるかもしれないが、人でなければできない仕事は必ず残るし、その領域は広がっていく。転職は当たり前になり、学び直しは必須である。やりたくもない仕事が減って、おもしろい仕事が増えていく、とポジティブに考えたい。

・人はいつまで働くのか。かつて堺屋太一氏は、歴史をみると、死ぬ10年前まで働くというのが社会の仕組みであると語った。人生50年の時は40歳で隠居、人生70年の時に60歳定年というのが広がった。もちろん個人差はあろう。

・筆者の場合は、90歳までは生きようと考えているので、80歳まで働く必要がある。最後の10年は、気力、知力、体力という点で誰かの世話になることは避けられない。「寝ん寝んころり」よりは、「ぴんぴんころり」の方がよいが、そうはいかないかもしれない。

・スマボ化で働き方が全く変わってくる。週休3日、45歳定年など、新しい動きも顕在化してこよう。

・生産性の指標として、金融資本生産性(ROFIC)はROICで測られる。これをいかに上げるかという点で、ROEやWACCが重視されてきた。

・同じように、人的投下資本生産性(ROHIC)はどのように測るのだろうか。従来の労働生産性は付加価値額を労働者数で割って算出していたが、これだけでは不十分かもしれない。人的投下資本に対するリターンと期待所得を比べる必要があろう。

・年間総人件費×平均勤続年数で、人的資本とみなすことができるだろうか。あるいは、ROHIC=付加価値/人件費(広義の人的投資)として、労働生産性=ROHIC×1人当たり人件費とみることもできる。こうすると、1人当たり人件費を上げて、人的投下資本生産性がより上がるならば、労働生産性は向上していく。

・人件費はP/L上の費用ではなく、人的投下資本であるという見方はますます有力になってこよう。スマボを活用して、人的資本をサポートし、付加価値の向上を図るならば、人はますます働き易くなる。スマボにはできない、何らかの知的活動で80歳までは元気に働きたいものである。

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