将来ビジョンと中期計画の達成に向けて~アステナHDのケース

2021/10/08

・コーポレートガバナンス・コード(CGC)の改定で会社はよくなるのか。あるいは、長期ビジョンと中期計画の立案で会社はよくなるのか。最近よく聞かれる問いである。

・CGCで会社がよくなるかどうかのデータはまだ十分揃っていない。ビジョンや中期計画を立案しても、多くの会社では、それが実現していない。これらをみると、上記の問いに対して、一言でいえば、難しいというのが答えであろう。

・ある意味、これは当然のことであろう。抽象的なテーマを条件に掲げても、それを実現する経路はさまざまであり、途中のプロセスを抜きに見通すことはできない。まさに経営者のリーダーシップと実効戦略が明暗を分けるところである。

・ここ数年、中期計画の前に将来ビジョンをかかげ、自らの存在意義(パーパス)を再定義しながら、事業を推進する会社が増えつつある。しかし、それは絵に描いた餅にとどまり、中身をみても実現するにはパンチが感じられない、という場合も多い。

・企業変革は、いつの時代も経営トップに依存する。そこで、1つの事例としてアステナホールディングス(コード8095)を取り上げてみよう。

・ジェネリック医薬品とその原料のイワキは、この6月に社名をアステナホールディングスに変えた。しかも、本社機能の一部を日本橋から、能登半島の石川県珠洲(すず)市に移した。

・新中長期ビジョン「アステナ2030」では、2030年に売上高1300億円、ROE 13%以上を目指す。そのための最初の中期3カ年計画では、2023年11月期に売上高820億円、営業利益42億円、ROE 9.7%を達成する方針である。

・しかし、現在のPBRはまだ0.9倍にとどまっている。これをみると、会社計画はマーケットにほとんど受入られていない。なぜだろうか。

・①計画はいくらでも立てられるが、実現できるかどうかはまだ分からない。②計画の中身をみてもよく理解できないので、会社の将来は判断できない、③大事なのは足元なので、計画が実現してきたら、それをみながら判断しても遅くないなど、さまざまな見方があろう。

・銘柄としての投資対象はいろいろある。よく分からないアステナより、よく分かる会社で、魅力がありそうな銘柄に投資した方が、手っ取り早いし、安心である、という考え方もあろう。しかし、何事も出会いである。偶然の中に、面白さがあるかもしれない。もう一歩突っ込んでみたいという時もあろう。

・アステナHDの岩城社長は、創業家の4代目で、まだ40代である。2017年に社長に就任したが、副社長の時に、第1期の中長期ビジョン(2025年までの計画)の立案をリードし、その実行を担ってきた。

・この5年間で、3カ年の中期計画を4回ローリングした。なぜか。2年か1年でその達成が見えてしまったので、次の計画へ上方修正してきたことによる。何故相次いで上方修正となったのか。それはM&Aによって、ビジネスモデルを強化し、それが次々と成果を上げているからである。

・新しいビジネスモデルの骨格ができてきた、そこで、2021年から2030年までの第2次中長期ビジョンをスタートさせた。では、事業の中身をどう変えてきたのか。

・アステナは4つの事業を柱とする。1つ目の医薬品の原料では、この領域で、もともと武田薬品工業にあったCMC事業(新薬の原料・原薬の製造方法の開発)のスペラファーマを買収し、従来の原料とは違った高薬理活性原料(がんなどの薬品原料)に参入していく。このCMC事業は、日本でトップである。

・2つ目は、ジェネリック医薬品のメーカーとして、皮膚のぬり薬では既にトップクラスであったが、鳥居薬品から佐倉工場を買収し、これによって注射液分野に参入できることになった。注射液で、がんなどの新しい領域に入っていける。

・3つ目は、化粧品や健康食品の分野で、企業を買収しユニークな商品を広げている。4つ目は、表面処理薬品で、半導体向けの独自商品で存在を示すと同時に、日立化成の表面処理分野の事業を譲り受けて、顧客基盤を拡大している。

・数年で、こうしたM&Aに100億円を投資した。自社開発とM&Aを活かしながら、かつての商社機能に製造機能を加えて、新事業領域の開拓を進めている。ニッチトップ事業とプラットフォーム事業を育てつつある。

・さらに石川県珠洲市の本社をベースに、SDGsと地方創生に役立つ社会的インパクトのある主力事業を、ここから育てていく計画である。100億円規模を目指している。

・岩城社長の5年間のトラックレコード(過去の実績)をみると、有言実行、早期実現である。次代を読む構想力もユニークである。R&D型なので、新しいネタが事業として目立ってくるには数年を要する。

・セグメント別の4つの事業を、目指すビジネスモデルに従って再分類してみると、3つの領域と7つの事業に分けられると、岩城社長は強調する。

・第1は、「策揃え」プラットフォーマー事業である。ここには、①CMC事業(医薬品製造の研究開発、国内トップレベル)、②ヘルスケア調達プラットフォーム事業(医薬品、化粧品、機能性食品会社のニーズへ対応)、③CDMO事業(注射剤、外皮用剤、治験薬の受託製造)、④創業インキュベーション事業(CMCで新薬開発をサポート)が入る。

・第2は、ニッチトップ事業である。ここには、⑤外皮用ジェネリック事業(国内塗り薬№1)、⑥ハイエンド表面処理薬品事業(電子部品、半導体向け)が入る。

・第3は、「社会変革」ソーシャルインパクト事業で、⑦シニア・アクティベイト事業である。化粧品、機能性食品の提供で、シニア層の総アクティブ化、つまり全員アクティブシニアにしようという狙いを目指す。通販事業を主力に既に110万件の顧客アドレスを有する。ここに商品を売るだけでなく、新しい仕組みの提供でシニアを元気にするサービスや場を作っていくという方向である。

・一言でいえば、アステナはスペラファーマを軸に新たなプラットフォームを作り、ニッチトップで独自のなくてはならない存在を目指している、といえよう。

・ソーシャルインパクトのシニア・アクティベイト事業の1例として、農場経営に取り組む。健康食品や化粧品の原料を生産し、それを利用した製品で地域ブランドづくりを目指す。

・アステナの由来は、「明日(未来)+サステナブル」にある。社内公募の中から選ばれた。社長も案を出したが、通らなかったというからおもしろい。四代目の企業変革(CX)の実現に大いに注目したい

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