バリュー投資かグロース投資か
・あなたの投資スタイルは? と聞かれたら、何と答えるだろうか。とにかく短期でうまく儲かるように投資して、値下がり損は避けたい。中長期の投資を行っていくので、良い会社に投資したい。伸びる会社に投資して、中長期に大きく儲けたい。いろいろな考えがあろう。
・プロの機関投資家にあっては、そのスタイル(型)として、長らくバリューかグロースか、というのが典型的な分け方であった。バリュー(割安)株に投資するのか。グロース(成長)株に投資するのか。
・利益がしっかり出ているにもかかわらず、割安に放置されている株式はいずれ株価が見直されてくる公算が高い。このバリューに投資しよう。あるいは、まだ利益が出ていなくても、かなりの成長が見込める。いずれ利益も出てくるので、その成長性に注目して先行しようという考えもある。
・証券アナリストジャーナルの今年3月号は、「バリュー投資再考」を特集した。長らくバリュー投資は、株式運用の主軸として良好なパフォーマンスをあげてきたが、リーマンショック後は相対的にパフォーマンスが劣っており、昨年のコロナショックの時も大きく影響を受けた。
・しかし、ポストコロナに向けて、バリュー投資は見直されるかもしれない。とすれば、どのような条件が重要なのか。こうした点にフォーカスしたものである。
・6月に、野村アセットマネジメントの高柳氏(チーフポートフォリオマネジャー)と片山氏(先端技術研究グループチームリーダー)のセミナーをCFA協会で視聴した。証券アナリストジャーナルの論文「バリュー投資再考~完全予見による評価」の著者としての論考である。
・彼らの分析によると、過去40年をうち、30年はバリュー優位であったが、この10年はグロース優位で、バリューが十分効いていない。日本株だけでなく世界でも同じような傾向にあった。
・バリュー投資の基本は、業績に比べて株価が割安であるところに着目する。ここをいち早く見出して、リターンをあげようという投資スタイルである。業績の先行きがカギを握る。
・そこで、もし将来の利益が完全に分かったとすれば、バリュー投資は有効であったかという観点から検証を行った。これが「完全予見による評価」である。
・12か月先の業績が今分かっているという前提で分析を行った。そこでは、最近の10年のバリュー投資にもパフォーマンスが出ている。しかし1年毎にみると、バリュー投資が機能していない年もあった。つまり、業績をベースにした割安株投資が十分な成果を上げられない、という傾向がみられた。
・なぜだろうか。ここからは筆者の主観的な見方である。実証分析を伴っていないので、1つの意見というレベルである。
・第1に、業績予想が難しくなっているのではないか。マクロ経済環境にしても、個々企業の経営環境にしても、想定外のことが起こると、先行きを見通すことに自信が持てなくなる。12か月先の業績が完全に読めれば、バリュー投資のパフォーマンスが上がるといっても、それが難しい。しかも、12か月はかなり短期である。
・第2は、業績が見通せる範囲において、その業績が伸びるのではなく、停滞もしくは下降しているのではないか。企業の自力が落ちているとすると、相対的に割安だといっても、そこに注目する投資家は少ない。割安さが発見されないのではなく、割安なのが妥当とみられているのかもしれない。
・第3は、リーマショックやコロナショックという大きな変動にさらされると、企業間の格差が一気に表明化する。コロナ禍では、巣ごもり需要が大きく伸びたが、人の移動は著しく制限された。
・これがK字型の業績格差がなって現れた。飲食、旅行、対面サービスは、コロナ禍のダメージが大きく、企業体力を相当棄損している。ポストコロナで戻ってくるとしても、生き残りのターンアラウンドに、バリュー投資としての価値を見出すにはリスクが大きすぎるのかもしれない。
・第4に、バリュー投資の意味付けが変わっていることも十分ありうる。この数年はサステナブル投資やESG投資が注目され、それに値する企業に陽が当たっている。バリューが目先の業績に比べて株価が割安であるというレベルでは、中長期投資家は評価しない可能性が高い。
・一方、グロース投資において、成長への期待先行で株価が上がっても、肝心の利益がついてこないことも多い。あるいは、赤字から黒字になってきたとしても、その利益が思ったほどではないと、株価が大幅調整することもある。
・この10年、GAFAは未知の領域を切り開いて、業績もついてきた。しかし、巨大になってきたので、競争への制約が議論され、何らかの網がかけられようとしている。また、中国の成長企業においても、国家共産主義の枠からはみ出そうとしているとして、別の意味で制約がかけられ始めた。
・コロナ禍で、DXへの期待は過剰な株価上昇をもたらした。バリュー(価値)の評価を超えて、SNSにのせられたミーム株として話題先行になった企業も多い。昔でいえば、材料株、仕手株である。ファンダメンタルを無視して、特定の投資家の周辺で人気を集め、いずれ誰かがババを引くという投機的動きである。
・バリュー(価値)の評価は難しい。評価が十分できるような企業になった時には、材料出尽くしで、新しい魅力はほとんど株価に織り込まれていることになろう。
・野村アセットの高柳氏は、これからのバリュー投資について、割安でないところから割安を選ぶのがコツかもしれない、と語った。
・つまり、バリュー(価値)はこれから創られる。今は割安でなく妥当であっても、あるいはやや割高であっても、今から創られる付加価値が新たなバリューとなっていくので、それを評価していくという意味であろうか。筆者は、そのように解釈したい。
・伝統的なバリュー投資か、グロース投資か、というスタイルを越えて、新しいバリュー投資(企業価値投資)に邁進したいものである。