感動への共感~ソニーの経営はいかに

2021/07/05 <>

・コロナ禍にあって、どの世界でもリアルとバーチャルのあり方が問われた。体験価値はやはり生でなくては、いやいやサイイバー空間でも十分共感できるなど、場面によってさまざまな意見があろう。

・ライブ会場においても、デジタル技術は活用されている。リモートのデジタル世界で、音楽、演劇、スポーツがどこまで楽しめるだろうか。臨場感が高まってくれば、その価値に価格がついてこよう。

・生のライブ公演と同じように、例えば1回1万円が支払われるようになれば、エンタメ業界は復活し、再び成長産業となろう。先端デジタル技術を活かしたサービスのあり方が問われている。

・ソニーグループが見事に復活した。6月の世界デジタルサミットで、ソニーの前社長平井一夫氏の話を聴いた。1984年にCBSソニーに入社し、エンタテイメントの世界でビジネスをやってきた。まさかソニーのマネジメントを担うとは思わなかったと話す。

・2012年に社長になった時、長年の本業ともいうべきエレクトロニクス事業が苦しくなっていた。平井氏はソフトの分野で育ってきたが、実はハードには子供の頃から親しんできた。苦境の頃のソニーのエレキ商品には魅力がなく、自信の無さが商品の出ていると感じていた。では、どうやってこの溝を埋めていったか。

・ソニーのミッション、ビジョン、バリューは「感動にある」と社員に語った。しかし、それだけでは誰も聞いてくれない。そこで、とにかく社長を特別扱いしないでくれ、と要請した。

・社員食堂ではVIPルールではなく、社員と同じ席で食事をとるようにした。ホテルに泊まると、ソニーのTVが置いてある。よくみると、その時だけ運び入れたらしい。こういうことを、1つ1つやめさせたという。

・力を入れたのは、社員とのタウンホールミーティング(対話集会)である。月に1~2回、30~40代の内外の社員と、10人くらいで弁当を食べながら対話した。これを社長の間、6年間行った。社員に問題意識はある。アイディアはある。情熱はある。これを感じたので、方向を示せばターンアラウンドできる、と確信したと話す。

・赤字に陥って経営状況がよくないと、何もかもが抑え込まれる。アイディアを吸い上げても実行に移さなければ、誰も信用しない。エンジニアをいかにエンカレッジするか。いいものは商品化すると決めて、実際「100インチ4K」の商品化は社長直轄にした。こうしたことを通して、実現へのスピードをみせる必要があった。

・平井氏は、「異見」を大事にした。異見とは、異なる見方である。イエスマンはいらない。ベストアプローチはマネジメントチームで探す。社長がすべてわかっているわけではない。知ったかぶりをしても、まわりには分かってしまう。素直に教えてもらった方がよい。

・もう1つ、平井氏は、「肩書で仕事はしない、人格で仕事をする」と強調する。上がこうしろと言えば、下は少し仕事をするとしても、リスペクトしていない上司に対しては頑張れない、という意味である。

・社員11万人のモティベーションをいかに上げるか。その場を作ることがマネジメントの役割である。リーダーはIQよりもEQを重視して、モティベーションを引き出す。これはリーダーしかできないと実感した。

・では、異見を出る場は、どのように作るのか。まず、自分からはしゃべらない。意見を出してもらう。じっと待つ。いいアイディアは、自分の考えと違っても採用すると覚悟する。その上で、議論して決める。その責任は社長がとる。責任を取らないとみられたらおしまいである。これを6年間やって、ようやくソニーのカルチャーになってきた、と語った。

・2018年に社長を退任した。現在はシニアアドバイザーであるが、マネジメントには一切関わっていない。子供たちの貧困を支えるためのプロジェクトに、意欲的に取り組んでいる。

・この平井氏の後を継いだ吉田CEOの経営方針説明会を5月に聴いた。ソニーのパーパス(存在意義)は、感動を届けることにあるとして、これを軸に、エンタメもライフプランもつなげていく。

・人々に寄り添って、テクノロジーを活かして、クリエイティブなコンテンツで、コネクトピープルを実現する。現在1.6億人と繋がっているが、これを10億人に広げると宣言した。

・平井氏が社長になった翌年、吉田氏は当時のソネットから本社に戻ってきた。子会社に12年いて、そこの社長を6年務めた。インターネットとエンタメの会社であるソネットのトップとして、経営をリードしてきた。本体に戻ってCFOを担ってきたが、いわゆる財務専門ではなく、事業経営が分かるCFOであった。後継のCEOに就いたのも自然であった。

・平井路線の「感動を人々に」は継続している。吉田CEOは、再生への道のりを振り返って、1)規模は追わず、プレミアムに徹する。2)エレキのリストラでは、PCはやめて、TVは分社化、モバイル継続して黒字化にもっていった。3)半導体関連はCMOSに集中した。4)ソニーフィナンシャルを100%子会社化した。5)この間、プレステは10倍に成長した。

・営業C/Fは、0.6兆円から2.6兆円へ拡大し、フリーC/Fはプラスに転じた。時価総額はボトムの1兆円が14兆円となった。今後も2兆円規模の投資を続けていくと明言した。

・ソニーグループは、パーパスを軸に、価値創造に邁進する。クリエイターを育て、ユーザーから選ばれて、人々に近づく。感動をバリューチェーンにして、シームレスに届けていく。①エンタメ、②サービス、③モバイル、④ソーシャルなど、さまざまな場面がある。

・カギは、1)クリエイティビティ、2)テック、3)ワールドにある。クリエイティブな作品はジャンルを超えていく。映画のコンテンツが、ゲームになり、TVでシリーズ化される。漫画がアニメ、TV、映画へと繋がっていく。歌はどのコンテンツでも使われる。そして、こうしたIP(知財コンテンツ)を米国市場から世界へマーケットを拡大していく。

・音と映像のテックでは、イメージセンサー(CMOS)がキーデバイスとなり、8Kの動画へと広がっていく。バーチャルプロダクションが本格化し、体験テクノロジーが次世代VRへとつながっていこう。

・アニメがゲームと繋がり、モバイル、ソーシャルへと広がっていく。コンテンツの作り方も変化して、クリエイターとユーザーがプレステを通して、ソーシャルで繋がっていくことになろう。

・モバイルの次のモビリティである。EVでは、車載センシングに力を入れていく。まずはモビリティの安全に貢献する。次にEVの中、EVのまわりで、エンタメ空間を広げていく。同時に、IoTが社会に生産性向上に寄与するようになろう。

・一方で、このままいくと2030年には、今の消費電力と同じだけのデータセンターが必要になる。AIによる分散データ処理、エッジデバイス化が進展しよう。ここにも新たなソリューションを見い出していく。

・このように、ソニーグループは感動のバリューチェーンで、10億人のつながりを目指す。吉田CEOのプレゼンは明解であった。再生を越えて、新たな成長を目指すソニーグループの次のステージに、大いに期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。