資産運用の高度化に向けて

2020/05/12 <>

・3月に、FinCity Global ForumがWEBライブで催された。テーマの1つに「ESG投資を通じた資産運用の高度化」があった。これをいかに捉えるか。

・2019年の国際金融都市ランキングをみると、東京は6位であった。ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポール、上海に次ぐ。後ろにシドニー、北京がいる。

・1つの指標なので捉われる必要はないが、いかに特色を出していくか。自国の金融資産を考えれば妥当なところかもしれないが、海外から日本への投資、日本から海外への投資というグローバル化で打つ手を考えると容易ではない。

・ロンドン、香港の地盤沈下に比べて、東京はどうなのか。同じように存在感が低下していく傾向にある。これをいかに巻き返すか。それには、東京に拠点を置く投資家がもっと儲かることである。それを担う金融ビジネスで、グローバルな人材が働きやすいようにすることである。

・金融には常に‘お金の論理’が付きまとう。つまり、冷徹な取引のルールが、時にあくどさをみせる。金融機能は重要であるが、それを担う金融機関が従来型の価値観に沿って組織運営に拘泥していては、次の未来は開けない。

・2018年までの20年間をみると、米国の個人金融資産は9558兆円へ、2.7倍増えている。ロンドンは965兆円、2.3倍増えている。しかし、日本は1830兆円ながら、1.4倍にとどまった。

・そのうち運用リターンによるものが、米国は2.0倍、英国1.6倍、日本1.2倍であった。つまり、日本経済の停滞、日本企業の低収益、株式市場の伸び悩み、運用機関の力量が低リターンに現れているといえよう。

・次の20年はどうであろうか。働き手としては、今の30代、40代に期待したいところであるが、一筋縄ではいかない。高齢化の進展で、個人金融資産の取り崩しも顕在化しよう。

・苦しい時代となるが、1)企業の新陳代謝を図り、2)人材の流動化を進め、3)若者中心の組織運営に転換し、4)定年・引退無しの社会にもっていくことが求められる。

・海外の人材が東京で活躍するには、税制が課題であると、中曾会長(東京国際金融機構)は指摘する。高度金融人材が、税制でシンガポールなどに比べて不利にならないように、二重課税問題を見直すべきである。国内では、常に不平等や格差が問題となるが、パイを大きくするための工夫があってよい。

・その中で、資産運用業はいかに高度化するのか。ESGインデックスに投資して、グローバルな分散を図ればよい、というのではシンプルすぎる。まして、日本の公募投信のアクティブ運用がパッシブに負けているようでは、プロとしての存在が疑われる。

・米国の株式ファンドの規模をみると、この20年でパッシブファンドが大きく伸びて、アクティブファンドを抜いてきた。アクティブの信託報酬が0.8%に対して、パッシブは0.1%であるから、パッシブのコストは安い。

・世界の資産運用会社のランキングをみても、1位ブラックロック、2位バンガード、3位ステートストリートとパッシブ型が上位を占め、4位にフィデリティがいる。日本の運用機関の存在はかなり薄い。

・日本ではまだアクティブの規模が大きいが、近年パッシブが勢いを増している。日本のアクティブの信託報酬は1.3%であり、パッシブは0.6%と、いずれも米国よりは高い。

・運用会社は、顧客に対して、信認義務(fiduciary duty:米国)、最善利益(best interest:英国)、忠実義務(日本)を負っており、ガバナンスのあり方もより独立性が求められる。

・資産運用業の高度化について、大場会長(日本投資顧問業協会)は、①フィデューシャリー、②プロフェッショナリズム、③クオリティを挙げる。顧客である投資家の信認に応え、プロとしての専門性を発揮し、組織としての独立性を保った上で、パフォーマンスを創出することである。日本はこの点でまだ劣っている。

・ブラックロックのフィンク会長(CEO)は、ESGに対応する企業こそ持続可能な成長を実現できると明言し、気候変動などの社会的課題に対応すべく、金融資本企業の変革を求めている。

・投資家として、運用商品を選択するには、1)まずはトラックレコードであるが、2)次にその運用会社のガバナンス、3)そしてプロとしてだれが運用するのか、に着目したい。

・個人投資家としては、そこが納得できれば少額投資から始めて、少しずつ増やしていくことが望ましい方策である。資産運用会社を選択する自らの力量も高度化していきたい。

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