ワークマンのデータ経営~圧倒的にユニーク

2019/11/18 <>

・8月のビジネス・フォーラムで、ワークマン(コード7564、時価総額6433億円)の土屋哲雄専務の話を聴いた。作業服のワークマンを急成長企業に変身させた。

・そのやり方は、まことにユニークである。すでによく知られたマネジメントかもしれないが、あまりに面白いので、その特長を取り上げてみる。

・土屋氏(67歳)は三井物産育ちで、情報システム・ロジスティックスを担当してきた。7年前にワークマンに入り、そこから変革をスタートさせた。

・ワークマンは作業服を39年作ってきて、業界№1である。№2はいない。作業服なので時間軸がない。よって、新しいことをやる必要がなかった。

・当社にきて1年間は何もせず様子をみた。この会社に先をみる力はない。井の中の蛙になっていたので、新しい事をして競争したら負ける。そこでニッチドミナント、ブルーオーシャンを作ることにした。

・2年目からデータ作りを始めた。ツールを購入しても使い方が分からないので、研修に力を入れた。社員の受講者に自信をつけさせるために、必ず90点以上取れるように工夫した。

・2年間これを進めて、4年目からデータ経営をスタートさせた。39年間、勘でやってきた。競争感覚がない。そこで、データで稼げる仕組みを作ろうとした。

・ワークからアパレルにシフトすることを目指した。もともとワークはアパレルとは認められていなかった。単なる作業服で毎年同じようなものである。古くならないので、翌年にも売ることができる。

・まず、文化を変える必要があった。「意見を変えるのが、良い上司」というように方針を変えた。間違っていたら訂正すればよい。議論をしなくなったらおしまい。データをみて、議論する。そして、方向を変えてみる。それを標準化する、という展開である。

・ワークの商品はロングテールである。売場を変えてはいけない。たまに来ても必要なものが同じ場所にないと顧客は困る。アパレルは2週間でディスプレイを変えるが、そんなことはありえなかった。

・中期計画を作らなかった。もともと時間軸がない経営であったので、当然期限をつけても無理がある。期限が重要でなく、業態変革ビジョンの実行がカギであった。

・必ずやるということが大事で、責任者にはできるまでやらせる。担当者の変更はしない。そうすると不思議なもので、どんどんできるようになるという。

・5年前に、中期業態変革ビジョンを掲げ、デジタル経営で新業態へトランスフォームすると決めた。社員一人当たり時価総額で業界トップを目指す。新業態、新フォーマットでアウトドアの領域を作り、アマゾンに勝つ。5年で平均年収をベアで1人当たり100万円アップさせる。こうした内容を実現してきた。

・株価はこの10年で20倍、この5年で8倍、この2年で4倍になった。ビジネスモデルのカギは、標準化と実行力にある。作業服というのは10年間売るもので、その特性上陳腐化しない。この作業服をスタイリッシュにすることを実践している。

・作業服は個人で買う人が多い。安くてカッコイイ服がよい。作業服をアウトドア服に広げて、ブランド化した。400万着を上下3000円で作ると、アマゾンでも絶対に対抗できない。

・横軸が機能⇔デザイン、縦軸が普及価格⇔高価格という4つのセグメントに分けてみると、セレクトファッションは<デザイン/高価格>で激戦、ユニクロなどの製造小売りアパレルも<デザイン/普及価格>で激戦、アウトドアファッションの<機能/高価格>も激戦であった。

・その中で、ワークマンは<機能/普及価格>で差別化していた。この領域に競合はいない。スポーツファッションメーカーの5分の1、アウトドアファッションメーカーの4分の1の価格であるから、競争上ブルーオーシャンである。誰も追いかけてくることはできない。

・「ワークマンプラス」の業態を作ってきたが、これが圧倒的優位性を発揮している。第1に、定価販売である。在庫処分の安売りはしない。売れ残りはなく、来年も売れるのでキャリー(在庫を持ち越)した方がよい。第2に、商品は5年間継続する。第3に、作業服を一般客にも販売する共通製品としている。

・新製品は、初年度に3~5万着と少なく作る。それでもGMS(大型スーパー)の1万着に比べればはるかに多い。3人に担当させて予測精度を上げ、データに基づいて2年目から10万着に上げていく。

・これを5年間作り、売上原価は65%に設定する。粗利が35%の価格となるので、このプライシングでは業界の誰も真似できない。しかも、誰でも経営できる仕組みにした。

・朝・夕は作業服を必要とするプロが買いに来る。昼間は一般客が買いに来るという二毛作ができるようになって、顧客層が大きく広がった。ワークの固定層200万人がベースとなっているので強い。

・データ経営では、何よりもデータ嫌いをなくすことである。褒めまくって誰でも90点以上とれるようにする。そうして使いこんでいくと、社員がデータを経営に活かすようになる。

・最もユニークなことは、‘やらないこと’を決めているところにある。①アパレル業はやらない、②値引き販売はやらない、③高付加価値製品はやらない、④海外出店はやらない、⑤意見を変えない上司はいらない、⑥情報システムを完璧に作ることはしない、⑦厳格な期限管理はしない、⑧業績ノルマは設定しない、⑨社内行事は行わないなど、マイケル・ポーター教授も驚くほどであろう。

・地味な作業服から、スタイリッシュな作業服へ、カッコよくて、安い作業服から作業服兼アウトドア服へ、まさにブルーオーシャン戦略の実践は見事で素晴らしい。

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