JSH(150A) 農園型の障がい者向け雇用支援サービスが今後の成長を牽引する見込み
精神疾患者向け訪問看護サービスと障がい者向け雇用支援サービスを展開
農園型の障がい者向け雇用支援サービスが今後の成長を牽引する見込み
業種:サービス業
アナリスト:藤野敬太
◆ 精神疾患者向けの訪問看護サービスと雇用支援サービスが中心
JSH(以下、同社)は、16年4月に医療機関等に向けた経営コンサルティングから開始し、17年10月の買収により、自宅療養する精神疾患者向けの訪問看護サービスが加わり、在宅医療事業を確立した。また、17年11月には農園型の障がい者雇用支援サービスを中心とする地方創生事業を開始した。
同社の事業は、在宅医療事業と地方創生事業の2つの報告セグメントで構成されている(図表1)。売上高は22/3期までは在宅医療事業の方が大きかったが、地方創生事業の成長率が高く、23/3期以降は地方創生事業の売上高が過半を占めている。利益率も地方創生事業の方が高く、地方創生事業の存在感が増している。
◆ 在宅医療事業
在宅医療事業では、居宅において継続的に療養を受ける状態にある精神疾患者を対象に、看護師職員等による訪問看護サービスを提供している。要介護者等を対象とした訪問介護は医療行為を伴わないが、同社の訪問看護サービスは精神疾患を持つ利用者とその家族を支援する医療サービスである。具体的には、生活習慣や生活リズムの確立支援、生活技術、家事能力、社会技術等の獲得支援、対人関係の改善支援等などを行う。
居宅にて療養する利用者に対して訪問するのは医師と看護師である。医師は月に1~2回の訪問診療を行うが、1回10分程度の診療に留まる。一方、看護師による訪問看護は月に4~12回の訪問、1回当たり30分以上行われる。訪問診療と訪問看護が分離されることで、医師はコア業務に集中でき、また、利用者も医師に伝えられないことでも、接触時間が長い看護師であれば言えることがあり、それが治療継続に必要な情報であることが多く、治療の質の向上につながりやすいというメリットがある。
創業時の事業が医療機関等に向けた経営コンサルティングであったことから、単に看護師を提供するだけでなく、医療機関に対して訪問診療に関するコンサルティングを行うことができるのが、同社の特徴である。
訪問看護サービスに対するコンサルティングや訪問看護サービスを提供するにあたっては拠点が必要となる。同社はこれまで連携医療機関のある地域に訪問看護ステーションを開設してきた(図表2)。事業所ブランドは「訪問看護ステーションコルディアーレ」である。24年2月時点において、在宅医療事業の事業所は13カ所(東京都8カ所、大阪府2カ所、埼玉県2カ所、北海道1カ所)あり、事業所に属するサテライトオフィス4カ所(すべて東京都)を加えると17カ所の拠点となる。なお、九州にある3カ所の事業所は地方創生事業に属している。
訪問看護サービスは医療保険の対象となり、1回のサービス提供につき約9,000円が診療報酬として支払われる。そのため、訪問看護サービスの売上高は、「訪問件数(利用者数×1利用者当たり訪問件数)×約9,000円」の式で算出される。
訪問件数を需要側から捉えると、「訪問件数=利用者×1利用者当たり訪問件数」となる。1利用者1カ月当たり訪問件数は7件前後で推移して緩やかに低下してきたので、利用者数の増加がこれまでの事業拡大を牽引してきた。ただし、月間利用者数は23年3月で1,929人、23年12月で1,938人となっており、直近こそ伸びは緩やかになっている(図表3)。
訪問するスタッフ(看護師)数は23年3月で114人、23年12月で124人となっており、訪問件数の増加を支えている。その結果、23/3期の149千件まで訪問件数は増加し続けてきた(図表4)。
◆ 地方創生事業
同社の地方創生事業は、障がい者雇用支援事業と観光物産事業で構成されるが、障がい者雇用支援事業が大半である。
一般的に、障がい者の就労支援サービスにはいくつかの類型があるが、同社の障がい者雇用支援事業では、そのひとつである農園型の就労支援サービスを行っている。
一定の従業員規模の民間企業には法定雇用率以上の障がい者を雇用する義務があるが、大都市圏においては法定雇用率を充足していない企業が多く、障がい者の雇用が不足している。一方、地方においては、雇用義務がある民間企業が少ないこともあって、障がい者の就労機会が慢性的に不足している。こうした大都市と地方における障がい者の就労機会のアンバランスを是正するのが、同社の農園型の就労支援サービスである。
同社の場合、障がい者の働き場所である農園を、就労機会が不足している地方に開設することを特徴としている。そのため、同社の農園は九州に集中しており、24年2月時点で17カ所、1、369区画となっている(図表5)。
同社は、農園利用企業に対して、障がい者3人と管理者(健常者で主にシルバー人材)1人を人材紹介し、農園利用企業は合計4人をチームとして雇用する。農園には看護師が常駐しており、農園で就労する障がい者の障害特性を把握し、特性に応じて定着支援のためのサポートを行う。また、農園利用企業のために、就労する障がい者の能力開発に取り組む体制を整備している。
なお、1区画に1人の障がい者が割り当てられることになっており、23年12月時点では、用意されている1,297区画に対し、1,051人の障がい者を受け入れている。
同社が得る収益は、サービス導入時に1回限りで発生するスポット売上(主に人材紹介売上)と、サービス利用期間において月額で継続的に発生するリカーリング売上(障がい者への定着支援サポート、農園利用、水耕栽培設備レンタル等の対価)で構成されている。リカーリング売上が障がい者雇用支援事業の売上高の約9割を占めている。利用企業は23年12月末時点で163社となり、1利用企業当たり月次経常収益(ARPA:Average Revenue per Account)は95.9万円まで増加している(図表6)。