Veritas In Silico(130A)プラットフォーム事業拡大と自社パイプライン構築のハイブリッド経営で成長目指す
mRNA標的低分子医薬品を製薬会社と共同開発するプラットフォーム事業を展開
プラットフォーム事業拡大と自社パイプライン構築のハイブリッド経営で成長目指す
業種:医薬品
アナリスト:鎌田良彦
◆ mRNA標的低分子医薬品の創薬研究プラットフォーム事業を展開
Veritas In Silico(以下、同社)は、DNAから特定のタンパク質に関する遺伝情報を転写し、細胞内での疾患関連タンパク質合成の設計図となるメッセンジャーRNA(以下、mRNA)を標的とする低分子医薬品(以下、mRNA標的低分子医薬品)の創薬研究を行うためのibVIS®プラットフォーム(以下、ibVIS®)を構築し、製薬会社と共同で創薬研究を行う創薬プラットフォーム事業を行っている。
mRNA標的低分子医薬品は、mRNAに低分子医薬品を結合させ、細胞内でmRNAの情報に基づきタンパク質合成を行うリボソームの働きを阻害・制御することで、疾患関連タンパク質の生成を阻害する作用メカニズムを持つ医薬品である。
従来の低分子医薬品は、疾患関連タンパク質に直接結合してその機能を阻害・抑制するが、低分子化合物が疾患関連タンパク質と結合する場所が限られたり、そもそも結合が困難であることによる、「創薬標的の枯渇」が課題となっている。
mRNAでは低分子医薬品と結合し、リボソームによるタンパク質生成を阻害するターゲット構造が複数ある場合が多く、mRNA標的低分子医薬品は、従来の低分子医薬品では対応できなかった様々な疾患関連タンパク質を対象に、低分子医薬品と同様に低コストで経口投与ができる医薬品の開発を可能にする創薬開発手法として注目されている。
◆ ibVIS®によるmRNA標的低分子医薬品の創薬研究
mRNAは細胞内で様々な形状を取るため、従来はmRNAのターゲット構造を見つけることが困難であった。この課題を解決したのが、同社の中村慎吾社長が開発した、統計力学理論及び熱力学理論に基づき、ターゲット構造候補の存在確率を、コンピュータを用いた構造解析により見出すインシリコRNA構造解析技術である。同社ではこのインシリコRNA構造解析により見出したターゲット構造に対して化合物スクリーニングを行う工程を含めて特許を取得している。
同社のibVIS®は、①インシリコRNA構造解析等によるターゲット探索、②製薬会社が保有する数万から数十万の低分子化合物ライブラリーの中からターゲット構造に結合する化合物を実験的に選択するスクリーニング、③スクリーニングにより取得したヒット化合物とターゲット構造の結合の強度や特徴を検証するヒット化合物検証、④ヒット化合物検証により取得したリード化合物の効果を高め医薬品候補化合物にするリード化合物最適化という創薬研究の4つのプロセスからなる。各プロセスはコンピュータによる解析等のデジタル技術、化合物のスクリーニングや細胞実験等の創薬技術の組合せからなり、mRNA標的低分子医薬品の創薬研究をワンストップで行えるプラットフォームになっている。
◆ 事業モデルと収益構造
同社は、製薬会社と共同創薬研究契約を結び、ibVIS®を利用してmRNA標的低分子医薬品の医薬品候補化合物を取得するまでの創薬研究を製薬会社と共同で行う(創薬研究段階)。医薬品候補化合物取得後は、同社の創薬研究における貢献分を製薬会社に譲渡し、製薬会社が非臨床試験以降の開発・販売を行う(開発・販売段階)。共同創薬研究契約では、創薬研究段階の経済条件に加え、開発・販売段階の開発・製造・販売ライセンスの経済条件についても定められることが多い(図表1)。
創薬研究段階では、同社は共同創薬研究契約締結時に契約一時金を受け取る。研究期間中は、研究実施の費用支援に加えibVIS®利用の対価等として研究支援金を毎年得る。更に、製薬会社と事前に定めた研究到達目標を達成した場合には、研究マイルストーンを得ることになる。
開発・販売段階では、製薬会社により非臨床試験に進むとの判断がなされた場合には、同社は最初の開発マイルストーンを得ることになる。更に、臨床試験に移行した場合には臨床試験の段階ごとに開発マイルストーンを、医薬品として上市された場合には、売上高に一定の料率を乗じたロイヤリティを、そして年間売上高が所定の金額を達成した場合には売上マイルストーンを得ることになる。
現在、東レ(3402東証プライム)、塩野義製薬(4507東証プライム)、ラクオリア創薬(4579東証グロース)、武田薬品工業(4502東証プライム)の4社との共同創薬研究を進めている。
現状で開発・販売段階まで進んだ実績はなく、最も進んでいるプロジェクトは、ヒット化合物検証の段階にある(図表2)。対象疾患や経済条件は非開示としている契約先が多いが、塩野義製薬では感染症、精神・神経系疾患の複数の遺伝子を対象とした創薬開発を進めており、ロイヤリティ等を含めた最大契約金額は850億円となっている。東レとの共同創薬研究では、医薬品候補化合物の権利は東レと同社が共有する契約となっている。
現在の共同創薬研究契約から得られるポテンシャル収益は、契約一時金・研究支援金・研究マイルストーンで最大17.8億円(うち23年9月までに5.5億円を取得済み)、開発マイルストーンで最大80.5億円、売上マイルストーンで最大1,050億円となっている。東レとの共同創薬研究では医薬品候補化合物の権利は共有となっているため、これらのポテンシャル収益は東レを除く3社を対象としたものと見られる。
22/12期の売上高は178百万円で、売上構成比は契約一時金収入が16.9%、マイルストーン収入が78.7%、研究支援金収入が4.5%であった(図表3)。
主要販売先では、直近では共同創薬研究先である、塩野義製薬、ラクオリア創薬、武田薬品工業への売上高が多くを占めている(図表4)。