ナルネットコミュニケーションズ(5870)のれん及び顧客関連資産は高水準であるが、EBITDAマージンは高い
リース会社等が保有する自動車のメンテナンス管理等を受託
のれん及び顧客関連資産は高水準であるが、EBITDAマージンは高い
業種:サービス業
アナリスト:大間知淳
◆ リース会社等が保有する自動車のメンテナンス管理等を受託
ナルネットコミュニケーションズ(以下、同社)は、自動車リース会社等の自動車関連企業から法人・個人ユーザーに対する車両管理及びメンテナンス管理等業務等を受託する自動車関連BPO注1事業を展開している。
同社は、叔父が経営する自動車整備工場で働いていた出口元氏によって、1978年7月、愛知県名古屋市にて設立された日本オートリース(旧ナルネットコミュニケーションズ)を前身としている。設立当初は、自動車リースの専業会社であったが、業容拡大に伴い、徐々に資金繰りの問題が大きくなったため、87年からリース会社との提携事業であるメンテナンス受託事業に進出した。金融機関系リース会社とのメンテナンス業務受託契約が順調に増加し、主力事業がリース事業からメンテナンス受託事業に移行したため、同社は00年に商号をナルネットコミュニケーションズに変更した。04年には自社開発のメンテナンス管理基幹システムの稼働を開始した。
◆ LBOが実施された経緯と大株主について
出口氏の勇退意向を受けて事業承継策を検討した結果、同社は、ジャフコグループ(8595東証プライム)によるLBO注2を選択した。19年7月に、旧ナルネットコミュニケーションズの株式取得を目的とした会社であるNALホールディングスが設立され、ジャフコグループが運営するファンドに株式が譲渡された。19年9月には、NALホールディングスが、旧ナルネットコミュニケーションズの株式をLBOによって取得し、完全子会社化した。22年4月には、NALホールディングスが、旧ナルネットコミュニケーションズを吸収合併すると共に、ナルネットコミュニケーションズに商号を変更した。
23年11月21日時点で、ジャフコグループが組成したファンドが保有する同社株式数は、合計で3,252,604株であったが、上場前の売出しに伴い、上場時点では1,010,704株(発行済株式数の19.0%)に減少している。
また、23年9月14日に、ジャフコグループが組成したファンドがMobility & Maintenance Japanに1,899,396株の株式を売却した結果、上場時点で同社の筆頭株主はMobility & Maintenance Japanとなっている(保有比率35.6%)。Mobility & Maintenance Japanは、伊藤忠商事(8001東証プライム)と伊藤忠エネクス(8133東証プライム)によって、23年8月、自動車アフターマーケットに関する株式の保有、売買並びにその他の投資を目的に設立された。Mobility & Maintenance Japanは伊藤忠商事の子会社であるため、伊藤忠商事は同社のその他の関係会社となっている。
◆ メンテナンス受託事業が売上高の約8割を占めている
同社は、自動車関連BPO事業の単一セグメントであるが、事業の内容により、メンテナンス受託、MLS(マイカーリースサポート)、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、その他に区分している。23/3期における事業別売上高構成比は、メンテナンス受託82.4%、MLS4.4%、BPO5.5%、その他7.7%であった(図表1)。
(1)メンテナンス受託事業
法人向けリースサービス提供者や一般法人から車両管理における点検・車検・修理等のメンテナンス管理部分を一括で受託している。同社は自社工場を保有しておらず、メンテナンスについては、23年9月末時点で全国11,742カ所の提携整備工場に整備を委託している。結果、スピーディーで低コストのサービスを提供している。顧客のリース期間に合わせてメンテナンス管理業務を受託しており、複数年契約が大多数であるため、非常に安定した事業基盤となっている。
(2)MLS事業
個人向けリースサービス事業者からリース車両のメンテナンス管理業務を受託している。メンテナンス受託事業では一般故障整備を含んだ契約内容となっている一方、MLS事業では決められたサイクルによる点検基本工賃と、決められた作業及び消耗品の交換のみの限定的な契約内容となっている。
(3)BPO事業
同社の業務は全てBPOサービスであるが、メンテナンス受託事業及びMLS事業のメンテナンス関連業務を除く、部分的なBPOビジネスとして、メンテナンス費用管理等のデータ管理サービス、タイヤ保管サービス、納税管理サービス等の車両に係る多種多様な業務をリース会社等から受託している。
① データ管理サービス
自動車関連企業の自動車整備及び管理を同社のシステム及びコールセンターの活用によりトータルでサポートするサービスである。
② タイヤ保管サービス
シーズン毎に履き替えを行うタイヤの保管及び作業手配等の管理に関する業務を一括して受託するサービスである。
③ 納税管理サービス
自動車税に関する業務を一括で受託するサービスである。
(4)その他事業
オートリース、リース車両の売却、ワランティ(故障修理保険)、メンテナンスパック等の事業である。
一方、同社は、顧客との契約から生じる収益をメンテナンス受託サービス、BPOサービス、車両販売、その他、その他の収益(リース収益)に分解している。メンテナンス受託サービスは概ねメンテナンス受託事業と対応し、BPOサービスは概ねMLS事業とBPO事業の合計と対応している。車両販売とその他、その他の収益の合計は概ねその他事業と対応している。
◆ 売上総利益(率)、営業利益、管理台数を重視している
同社は、事業の継続的な拡大を通じて企業価値の向上を目指すため、「売上総利益」と「営業利益」を重視する経営指標としている。また、事業拡大を計るKPIとして「管理台数」、収益性を計るKPIとして「売上総利益率」を挙げている。23/3期末時点の総管理台数は、幅広いサービス領域を武器とした新規契約の獲得により、前期末比16.0%増加した。19/3期から23/3期までの期間では、年平均23.4%増加している(図表2)。
総管理台数が増加した結果、23/3期末におけるストック収益は4,575百万円(メンテナンス受託事業2,710百万円、MLS事業1,300百万円、BPO事業565百万円の合計)に達しており、同社の安定的な事業基盤を形成している。23/3期末におけるストック収益は23/3期の売上総利益(2,179百万円)の2.1年分に相当する。
同社が定義するストック収益とは、対象期末時点における契約済み案件から、将来得られる売上総利益の総額を意味している。メンテナンス受託事業では、契約済みの残存メンテナンス料金に過去5年平均の売上総利益率を乗じて算出している。MLS事業とBPO事業では、契約済みの残存手数料が該当する。
◆ のれん償却額等を反映したEBITDAマージンは良好な水準にある
同社の23/3期の売上総利益率は31.0%である。売上原価は、自動車関連BPO事業売上原価(構成比94.3%)と、車両販売に対応する仕入高等である商品売上原価(同5.7%)によって構成されている。
自動車関連BPO事業売上原価は、主としてメンテナンス受託事業のメンテナンス費用であり、その97.8%がタイヤやオイル等を中心とした交換部品の仕入費用や提携整備工場に支払う工賃である外注費によって占められている。残りの2.2%は減価償却費等の経費である。23/3期のメンテナンス受託事業の売上総利益率は22.8%であった。
MLS事業とBPO事業は手数料ビジネスであり、売上原価は基本的に発生しないため、売上高と売上総利益がほぼ一致する。但し、MLS事業の契約の一部にはメンテナンス業務が含まれているため、BPO事業売上原価のごく一部にMLS事業の売上原価が計上されている。
23/3期の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は1,664百万円であり、販管費率は23.7%に抑えられている。内訳としては、給料及び手当が668百万円、顧客関連資産償却額が191百万円、のれん償却額が102百万円、賞与引当金繰入額が81百万円、減価償却費が69百万円であり、固定費が中心と推測される。
23/3期の営業利益率は7.3%と、さほど高い水準ではないものの、営業利益に減価償却費、のれん償却額、顧客関連資産償却額を加算したEBITDAは、927百万円、EBITDAマージンは13.2%と良好な水準である。
◆ 顧客関連資産とのれんの残高が高水準である
同社の23/3期末における自己資本比率は30.3%と低水準である(図表3)。LBOに伴い、有利子負債(リース債務を含む)が膨らんだことが要因の一つであるが、営業キャッシュ・フローを返済原資として、過去2期の借入金残高は減少している。
残りの負債の中心は、買掛金(負債純資産合計の16.8%)、契約負債(同11.2%)、繰延税金負債(同10.3%)である。このうち、繰延税金負債は、顧客関連資産の計上に伴って認識されたものが中心を占めている。貸借対照表に計上されている繰延税金負債は、繰延税金資産を控除した純額であるため、顧客関連資産に対応した繰延税金負債は、繰延税金負債(純額)を上回っている。
証券リサーチセンター(以下、当センター)では、顧客関連資産及びのれんの償却年数を20年と推定しており、顧客関連資産に対応した繰延税金負債も20年に亘り、均等に取り崩されると想定している。当センターでは、同社の収益力や債務返済能力を評価しているものの、償却期間が20年と長期であり、未償却残高が高水準となっているため、顧客関連資産とのれんの合計額が総資産の50.0%、自己資本の164.8%に達していることには注意が必要と考えている。
◆ 日本カーソリューションズ等の特定顧客への依存度が比較的高い
同社は、自動車を法人・個人ユーザーに賃貸するリースサービス事業者にサービスを提供している。主要顧客としては、東京センチュリー(8439東証プライム)の連結子会社である日本カーソリューションズ、トヨタ自動車(7203東証プライム)のグループ会社であるトヨタモビリティサービス、芙蓉総合リース(8424東証プライム)の連結子会社である芙蓉オートリース、トヨタレンタリース名古屋(名古屋市西区)等が挙げられる。
中でも、売上高に占める日本カーソリューションズとトヨタモビリティサービス向けの比率は、各々、22/3期が19.0%、5.1%、23/3期が17.4%、11.0%であった。同社は元々独立系であり、特定顧客と特別な関係があるわけでないが、結果的に当該2社に対する依存度が比較的高くなっている(図表4)。