西部技研(6223)技術力を背景とした海外売上高比率や営業利益率の高さに特徴がある

2023/10/12

デシカント除湿機とVOC濃縮装置等のグローバルメーカー
技術力を背景とした海外売上高比率や営業利益率の高さに特徴がある

業種:機械
アナリスト:大間知淳

◆ デシカント除湿機とVOC濃縮装置等のグローバルメーカー
西部技研(以下、同社)は、デシカント除湿機やVOC濃縮装置等を、スウェーデン、中国、アメリカ、ポーランド、韓国、ケニア等の子会社との緊密な連携のもと、約50カ国で販売するグローバルメーカーである。

同社は、九州大学工学部の研究助手であった隈利實氏が、大学勤務の傍ら、企業からの研究を受託する目的で1962年に設立した隈研究所を前身としている。その後、隈利實氏は、65年に西部技術研究所(現同社)を設立し、72年に商号を変更した。石油ショックを契機に新規事業を模索していた同社は、当時、海外で上市された全熱交換器注1の自社開発を目指し、研究に取り組んでいたところ、74年にハニカム成形技術の確立に成功し、全熱交換器を商品化した。

ハニカム成形技術とは、シート状の素材と波形の素材を交互に積層接着したものであるハニカム積層体を成形する技術であり、積層体の断面が蜂の巣に似ていることからハニカムと呼ばれている。ハニカム積層体は、空気抵抗が低く、強度に優れ、表面積が広いという3つの特徴を持っている。同社のコア技術は、多くの素材をハニカム状に加工できることと、そのハニカムに様々な機能材を添着し、特別な機能を持たせることである。同社は、全熱交換器の商品化の後も、各種製品の心臓部となるハニカムロータ(回転体)に同社独自のコア技術を用いることで、デシカント除湿機やVOC濃縮装置の開発・改良を実現している。同社グループでは、中国子会社やヨーロッパ子会社でもデシカント除湿機やVOC濃縮装置の完成品の製造は行っているものの、中核部品であるロータの製造は日本だけで行っている。

同社の事業領域は空調事業の単一セグメントであるが、製品別には、デシカント除湿機、VOC濃縮装置、その他に分類されている(図表1)。

22/12期における製品別売上高構成比は、デシカント除湿機64.0%、VOC濃縮装置26.3%、その他9.7%であった。

1)デシカント除湿機
一般空調に用いられる除湿には、主に「冷却式」と「デシカント式(吸着式)」の2つの方式があるが、冷却式が空気中の水分を冷却し、結露させて除湿するのに対し、吸着式は湿気を吸湿材に吸着させて除湿している。デシカント除湿機は、シリカゲルやゼオライト等の吸着剤を用いて、ハニカム内部に湿気を吸着させて除湿しており、低温時や空気中に水分が少ない低露点注2環境においても効率的に除湿できるという特長を持っている。

用途としては、最終製品の品質維持のため、製造工程で湿度コントロールを必要とする食品・製薬工場や、リチウムイオン電池製造工場、有機EL製造工場、低湿度倉庫、風力発電所等が挙げられる。中でも、近年、需要が急増している車載電池の製造では、そのほとんどの工程において-40℃露点以下の非常に低湿な環境が求められており、デシカント除湿機の最大の用途となっている。このような超低湿環境を省エネルギー性も加味して実現するには一般的な冷却式除湿機では実質的には不可能であり、現時点ではデシカント除湿機のみが有効な方式であると認識されている。

デシカント除湿機は、ハニカム積層体で作られた除湿ロータ、処理空気を送風する処理ファン、再生空気を送風する再生ファン、再生空気を高温にするための再生ヒーターで構成されている。同社は、デシカント除湿機本体を製造販売するだけでなく、ハニカム加工からロータ製造、モジュール製造を内製化しているほか、デシカント除湿機を用いたドライルームシステムの設計、設置工事も行っている。製品のライフサイクル期間においては、毎年のメンテナンスや、数年毎に実施されるロータ交換工事も行っている。

同社グループは、日本、中国、ヨーロッパでデシカント除湿機(完成品)を製造し、約50カ国の顧客に販売している。韓国では、同社が韓国子会社に供給したロータを用いて韓国の協力会社でモジュール製造を行い、現地顧客に販売している。北米では、主として欧州子会社が製品を供給している。

2)VOC濃縮装置
VOCとは、Volatile Organic Compounds(揮発性有機化合物)の略語であり、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント、悪臭等を発生する大気汚染物質である。VOC濃縮装置は、塗装(自動車、造船等)、印刷、コーティング等の過程や、VOCを含む化学物質や原材料を使用する製造工場から排出されるベンゼンやトルエンといった有害なVOCのみをVOC吸着ロータに吸着・濃縮し、効率的な処理を行い、排ガスを浄化する環境保全装置である。

同社は、88年に世界に先駆けてゼオライトを用いたVOC濃縮ロータの商品化に成功し、VOC濃縮装置の販売を開始した。従来は塗装や印刷工程向けが中心であったが、近年、半導体製造やバッテリー製造等の多様な用途に需要が拡大しており、現在は半導体と自動車塗装向けが多くなっている。

VOC濃縮装置は、ハニカム積層体で作られたVOC濃縮ロータ、ロータ回転駆動装置、ロータ内の処理・再生ゾーンで構成されている。ロータ内の処理ゾーンに運ばれてきたVOCは、ロータ内に含侵された吸着剤(疎水性ゼオライト)によりロータ内に吸着され、処理ゾーン出口から清浄化されて排出される。

一方、吸着されたVOCは、ロータの回転機構によって処理ゾーンから再生ゾーンに運ばれ、逆方向から送風された小風量の高温再生空気によりロータから脱着し、10~20倍に濃縮されたVOCガスが、VOC濃縮装置に接続された酸化分解燃焼装置に運ばれ、水と炭酸ガスに分解、清浄化される。低濃度のVOCガスを直接燃焼するには、大型の燃焼装置と、大量の燃焼エネルギーを必要とするが、VOC濃縮装置の導入により、燃焼装置の小型化と省エネルギー化が可能となっている。

同社グループは、VOC濃縮装置(モジュール)を約30カ国の顧客(VOC除去システムメーカー)に販売している。同社単体と中国子会社は製造販売しているが、韓国、北米、ヨーロッパでは、現地子会社が日本から輸入して販売している。韓国では、同社が韓国子会社に供給したロータを用いて韓国の協力会社でモジュール製造を行い、現地顧客に販売している。

3)その他
同社は、上記の主力製品のほか、74年に商品化した全熱交換器の製造販売も継続している。顧客としては、一般事務所ビルや、研究施設、病院、ホテル、学校、船舶、プール等が挙げられる。その他の売上高には家庭用のエアコンや冷蔵庫向けハニカムフィルター等の販売も含まれている。

◆ 85年からグローバル展開を本格的に開始した
同社は、85年に、デシカント除湿機メーカーであったスウェーデンのDSTSorptionsteknik ABと業務提携契約を締結し、ヨーロッパでのハニカムロータの販売を本格的に開始した。93年には、DST Sorptionsteknik ABの全株式を取得し、商号をSeibu Giken DST AB(以下、SGDST)に変更した。

その後も、米国で、01年に同社が、12年にはSG DSTが各々子会社を設立したほか、中国でも、07年に同社が、09年にはSG DSTが各々子会社を設立した。また、SG DSTは、ポーランド(13年)やケニア(17年)にも子会社を設立したほか、同社は19年に韓国子会社を設立している。

22/12期において、単体業績は、売上高10,912百万円、経常利益913百
万円、当期純利益701百万円であった。一方、主に欧州でのデシカント除湿機等の製造・販売を担当するSG DSTの業績は、売上高3,786百万円、経常利益1,471百万円、当期純利益1,368百万円と、収益性が極めて良好である。

中国でのデシカント除湿機の製造・販売を担当するSG DSTの中国子会社の業績は、売上高7,308百万円、経常利益2,088百万円、当期純利益1,782百万円と、同社グループの中で最大の利益水準を誇る。ハイエンド製品を直販していることや、ロータ以外の部材を現地で安価に調達できること等が要因である。また、中国でのVOC濃縮装置の製造・販売を担当する同社の中国子会社の業績は、売上高5,099百万円、経常利益932百万円、当期純利益812百万円であり、単体よりも収益性が高くなっている。

◆ 中国を中心に海外売上高比率は約8割に達している
デシカント除湿機の主な販売先であるリチウムイオン電池産業は、中国が首位、北米が2番目となっているが、自動車のEV化に伴い、更なる投資が見込まれている。一方、VOC濃縮装置においては、近年では特に、厳格なVOC排出規制が施行された中国と韓国において需要が急増している。現在の市場規模は、中国が最も大きく、韓国、ヨーロッパ、台湾、北米が続いている。

結果として、22/12期の地域別売上高構成比は、中国45.2%、日本20.1%、その他アジア(韓国、台湾、タイ、インド、マレーシア等)16.3%、ヨーロッパ12.6%、北米4.8%、その他1.0%となっており、海外売上高比率は79.9%に達している(図表2)。

23/12期第2四半期累計期間(以下、上期)についても、北米の構成比が11.9%に上昇する等、海外売上高比率は81.2%となっている。EVや、高性能半導体の世界市場の拡大が見込まれる中、関連する設備投資については、海外での投資規模が国内を大きく上回ることから、同社グループは需要拡大の好機と認識している。

◆ 営業利益率やEBITDAマージンを重視している
同社グループは、継続的な事業の拡大を通じて企業価値の向上を目指しており、収益性の重要指標(KPI)として、営業利益率やEBITDAマージンを挙げている。厳しい経営環境に直面した際にも、EBITDAマージンを注視しつつ、グローバルメーカーとして、必要な設備投資を継続する方針を掲げている。

22/12期においては、売上総利益率の上昇等に伴い、営業利益率は前期比7.9%ポイント改善の18.5%となった。EBITDAマージンも同6.8%ポイント改善の22.1%と、高水準を確保している(図表3)。

同社は、国内外の工場等で継続的に設備投資を実施しており、22/12期末の有形固定資産は8,181百万円と、総資産の26.3%を占めている。しかし、22/12期においては、設備投資は905百万円と減価償却費896百万円をわずかに上回る水準に過ぎず、大きな負担とはなっていない。

なお、同社は、新規上場時の公募増資や自己株式の処分によって調達した資金のうち、2,979百万円を宗像新工場(デシカント除湿機関連)の関連資金(23/12期:土地購入310百万円、24/12期:新工場建設1,200百万円、25/12期:機械装置購入1,469百万円)、291百万円を同社第一工場(除湿ロータ製造)の機械装置購入資金(23/12期:145百万円、24/12期:146百万円)、370百万円を工場の増設を予定するポーランド子会社への投融資(23/12期)に充当する計画を公表している。

◆ 海外展開によって、高い営業利益率と低い法人税等の負担率を両立
22/12期における単体の売上総利益率は27.5%であった。製造原価明細書によると、売上高材料費が38.3%、売上高経費率が26.9%(うち、売上高外注費率15.1%、売上高減価償却費率4.8%)、売上高労務費率が10.9%と、変動費である材料費や外注費の割合が高くなっている。

一方、連結の売上総利益率は40.4%と、単体数値を大幅に上回っている。中国等の海外市場において、競争優位性により、高い販売価格を維持できていることに加え、海外子会社では減価償却費や労務費、動力費等の負担が単体よりも軽いこと等が要因となっている。

22/12期における連結の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は5,444百万円であり、販管費率は21.9%にとどまっている。内訳としては、給料諸手当が1,810百万円、運賃が590百万円、研究開発費(植物向け二酸化炭素供給装置や植物ハウス向け全熱交換装置の製品化、燃焼排ガスからの二酸化炭素回収装置や酸素濃縮装置の開発等)が276百万円等であり、運賃以外は固定費が多いと推測される。売上総利益率の高さにより、営業利益率は18.5%と高水準となっている。

同社の法定実効税率は34.3%であるが、22/12期における法人税等の負担率は17.9%と低い。経常利益が大きい中国子会社2社やスウェーデン子会社における現地の法人税率が日本よりも低いことや、中国子会社において優遇税制の適用を受けていることがその主な理由である。高い営業利益率と低い法人税等の負担率を背景に、22/12期の自己資本利益率は24.5%と高水準を確保している。

同社の22/12期末における自己資本比率は57.1%であった。有利子負債(リース負債を含む)は54億円と少なくないが、現金及び預金の残高(98億円)を下回っており、財務体質は健全である。

なお、同社は、日本のVOC除去システムメーカーや、中国・韓国等の大手電池メーカー等、様々な業種の企業と取引をしているが、顧客は世界中に分散しており、売上高の10%以上を占める大手顧客は存在していない。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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